ソロ活動をしていた魔法使い、限界を感じて仲間を探したら防御力最強の色気ムンムンお姉さんが来た

まぁち

素敵だけどそうじゃない


 俺はシグマ。職業は魔法使いだ。愛用の『賢者の杖』をかつかつと鳴らして他のB級魔法使い共に無言でマウントを取る16歳である。


 俺は主にダンジョン(財宝が隠された洞窟や迷宮を指す)の攻略で生計を立てている。

 ダンジョン攻略というのは、ダンジョンの中の財宝やそこに住むモンスターを狩って持ち帰り、それを換金するのを繰り返す仕事である。

 ダンジョンに住むモンスターは危険極まりないものが多く、幾人ものダンジョン攻略者が襲われ、命を落としている。

 ゆえにダンジョン攻略には四人を基本としたチーム――つまりパーティーを組むのがセオリーだ。

 特に俺みたいな身体能力が低い魔法使いは魔法の発動に呪文を唱えなければならないので、隙が多く、その間守ってくれる仲間が必ずと言っていいほど必要だった。


「ぐむむ……」


 だから俺は酒場の掲示板で仲間を探していた。

「魔法使いなのにソロ活動なんてスゲーだろ?」とカッコつけてずっとソロで活動してきたが、最近攻略難度の高いダンジョンに入る事となり、限界を感じるようになった。

 やはり敵を引きつける前衛役の仲間は一人は必要だ。


 と言うのも昨日、めっちゃ素早さが高い敵に呪文の詠唱中食い殺されそうになったのだ。


 怖かった。

 まじチビった。

 由々しき事態だ。


 そういうわけでパーティを組んでいない前衛の戦士が仲間を募集してないかと見ているのだが、タイミングが悪かったのかそういう掲示は一つもない。


 諦めて去ろうかと思ったその時、


「お、シグマのアニキ、どなたか人材をお探しですか?」


 やたらと馴れ馴れしい高い声が俺を呼び止めた。振り向くと、小汚いフードを被った、そばかすが特徴的の痩ぎすの少女がいた。



 # #


「アニキの言ってた人材、見つかりました!」


 数日後、同じ酒場で掲示板を見ていた俺にそばかすの少女が元気良く声をかけてきた。


 こいつはテリア。

 以前街でチンピラに絡まれていた所を助けたら懐いた、人材斡旋や紹介を生業とするやつ。


「早いな」


 あまりの手際の良さに俺は驚いた。

 もっと一週間以上はかかると踏んでいたのだが。


「いやあ、私も偶然見つけまして。自分でも驚いてるぐらいです」

「へえ」


 そんな事もあるんだな。

 ……ただ、こいつは新人らしいのでちゃんと仕事が出来るのか不安だが。

 しかしこの自信に溢れた目は本物だ。信じてみる価値はあるだろう。


「紹介料はその人材を実際に見てからで良いのか?」

「はい!もちろんです!」


 テリアはそう言うと元気良く胸を張り「ではその人を待たせていいるので早速行きましょう」と俺を引っ張って行った。


 #


 そして着いたのは近くにあったレストランだった。朝の開店直後ということもあり、店内には人がほとんど見当たらなかった。


 入ってすぐ、左奥の角の席にテリアは向かう。

 すると、席に座る、栗色の長い髪を持つ女性の後ろ姿が目に入った。


「えっと、あの人が?」

「はい!」


 俺の耳打ちにテリアは自信満々の顔で答える。

 そのまま歩いて行き、女性の隣に着席。俺に向かいの席を促した。

 言う通りに席につく。そして目の前の女性を真っ直ぐと見た。


 まず、外見に目立った特徴は見られない。変異種である獣人や亜人では無いようだ。強いて言うならめっちゃグラマーな体型をしてて、なおかつ垂れ目泣きぼくろスーパー美人と言う事くらいか。

 服装はシャツにエプロンといったシンプルな格好。まるでどこかの若奥さんのよう。


「紹介します。色気ムンムンお姉さんです」


 酷い紹介の仕方だった。


 だが、言いたいことは非常に分かる。ていうかそうとしか言いようが無いかもしれない。だってこの人、ダンジョンに入るような戦士や騎士なんて職業には見えない。


 が、人を見かけで判断しないのが真のダンジョン攻略者だろう。

 ドワーフ(成人が人間の子供ほどの大きさしか無い亜人だ)が人間より遥かに力持ちなのがその最たる例なのだから。


 俺は気を取り直すように一つ咳払いし、


「初めまして、シグマだ。魔法使いをしている。今回はわざわざ時間を割いてくれてありがとう。それで早速なんだが、職業を教えて欲しいんだが」

「バツイチです」


 へーバツイチなのかぁ……。

 ……って、だからなんだよ。それただの一般人だろ。


「……特技は?」

「膝枕です」

「…………魔法は使えるのかな」

「痛いの痛いのとんでけぇー♡」

「あ?」

「ヒールです」


「……………」


 …………

 ……


 俺はテリアへ向かって杖をかざした。


「あの、なんで急にメガフレアの詠唱始めてるんです?杖こっち向けないでくれません!?」

「俺は「身体能力の弱い魔法使いに代わって前に出て敵を引きつけてくれる戦士」を紹介しろと言ったんだが?」

「少なくともそこら辺の山賊の目は引きつけてましたよ!」


 キラキラした顔で無い胸を張るテリア。

 俺は杖でその頭を小突いた。


「それただエロい目で見られてただけだろ!どう考えても防御力皆無だし瞬殺されるわ!」


 女性を指差して激高すると、テリアはちっちっちと指を振った。


「ちょっとちょっとぉ……人は見かけによらないって言うじゃないですかアニキ」

「何……?」


 なんだこいつの余裕。まさかこの女性、実は名のある剣聖とか……?


 考えを巡らせていると、テリアは「さあどうぞ言っちゃって下さい!」と女性の肩を馴れ馴れしく掴んだ。

 女性は顔を赤らめ、


「わたし……まだ、なんです……」


 俺は言葉の意味が分からず首を傾げた。


「バツイチなのに経験無し!とんでもない鉄壁の女ですよ!まさに難攻不落の要塞!」

「そういう防御力の話してんじゃねーんだよ!ふざけんな!」

「何が不満なんですか!パートナー無しのソロ活動。顔良し、スタイル良し、気立て良しのこの方のどこに不満があるって言うんですか!?」

「根本から違う!人生のパートナーとしての話だろそれ!俺が探してるのは冒険のパートナーなの!」



 ……もう少し、俺のソロ活動は続きそうだった。

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