(10)



「ふぅ……」


さすがに遊びすぎて疲れた私はドレスのままベッドに横になった。今日は色んなことがあった1日だった。アレクおじさまはまさかの国王陛下だったし、攻略対象のレオンと友達になった。平凡な人生を送るには少し道を外れてしまったかもしれないが、友達が欲しかったのだから仕方がない。このぐらいなら支障はないだろう、と自分に言い聞かせる。


「にゃー」

「あら?」


ベッドの下から聞こえてきた鳴き声に体を起こす。いつの間にか部屋に入り込んだ小さな訪問者は、構って欲しそうにこちらを見ていた。


「いらっしゃい、ティリー」


私が助けた(まぁ正式にはレオンに助けてもらったのだけれど)仔猫を飼うことにした私は早速名前をつけ、そして可愛らしいピンクのリボンを付けた。彼女はそれを嫌がることなくその首に付けている。うん、可愛い。


「もう木に登ってはだめよ?」


その小さな体を抱き上げてベッドに下ろす。ティリーは頬の辺りを私の膝に擦り付けて、そしてその場に丸くなった。もしも私に魔法が使えていたなら、この子を危険な目に遭わせることはなかったのに。自分の無力さに落ち込むと共に心の中で改めてレオンにお礼を述べた。


(……あの子はとてもいい子だから、幸せになってもらいたい)


それはきっと、シルヴィアと両思いになればいいのだ。だってゲームの中の彼は幸せそうだったから。シルヴィアに救われ、そして婚約することがレオンのハッピーエンドなのだ。


「私は友達としてレオンの傍にいられたらいいなぁ」


初めて出来た友達が幸せになってくれるのならと思いながら、私はティリーを優しく撫でたのだった。











「ではいってきます」


今日はスチュアートと村へお買い物に出かける日だ。アゼルも行きたそうにしていたが、少し遠くまで歩くのでお母様に止められていた。

お見送りをしてくれるアゼルに手を振れば『おみやげかってきてね』と涙声で言われてしまったので忘れないようにしなければならない。


「スチュアートとお買い物をするのは久しぶりね」

「左様でございますね」


にっこり、彼が微笑んでくれる。スチュアートはお父様が生まれた頃には既に居た執事で、おじい様がまだ現役だった頃から仕えている。私にとってはもう一人のおじい様なのだけれど、そんなことを言うと『私はマルサス家に仕える執事です』とピシャリと言われてしまうので、口にすることはもうしない。


「今日は何を買うの?」

「日用品を少々、と考えております」

「ふーん」


スチュアートと繋がれた手を軽く振る。他の令嬢からすれば執事と外出するなんて、と思われるかもしれない。しかし私だってずっと屋敷の中にいるのは退屈だし、それに領地も大きくなく治安も悪くないので外に出ても問題ないのだ。まぁ、一人で外に出るのは出来ないけれど。お父様はお仕事で忙しいし、お母様だってアゼルの面倒がある。そうなると必然的に頼れるのはスチュアートだったのだ。


「あら、スチュアートさんとお嬢様」


しばらく歩き、村を歩いているとパン屋の店先に出ていたふくよかな女性が声を掛けてくれた。


「こんにちは、メアリ」

「ごきげんよう」

「えぇ、ごきげんよう。今日はスチュアートさんとお出かけの日なんですね」

「日用品を買いに来たの」

「そうですか」


人懐っこい笑顔を浮かべるメアリは『あ、そうだ』と声を上げた。


「お嬢様、スコーンを焼いたのですが、お持ちになります?」

「え! いただけるの!?」

「えぇ、ぜひ」


メアリはお店に一度戻り、そしてすぐに戻ってきた。その腕にはスコーンが詰められた袋があって、どうぞと渡してくれた。


「ありがとうメアリ!」

「お嬢様に喜んでいただけて私はとても嬉しいです」

「すまないね」

「いえいえ、いいんですよスチュアートさん。またお嬢様といらしてください」


メアリに大きく手を振って、私達は歩き出す。村の人達はとても優しい。私を見かけると声を掛けてくれるし、食べ物だってくれたりする。そんな気を使わなくていいと言っても皆が口々に『お嬢様に喜んでいただけるのが嬉しいのですよ』と言うので、その気持ちを無下にすることも出来ず頂いている。


「よかったですね、お嬢様」

「ええ! 帰ったらこのスコーンをおやつにしたいわ!」

「かしこまりました。それならば美味しい茶葉も買って帰りましょう」

「やった!」


ついその場で飛び跳ねる私に、スチュアートが優しい視線を向ける。やっぱり外に出るのは楽しいな、なんて考えながら私達はお買い物を続けることにした。

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