ソロ〇〇な小説が読みたい【KAC2021 お題『ソロ○○』】

石束

ソロ〇〇な小説が読みたい!

 読書エッセイです。


 今回はKAC9つ目のお題は「ソロ〇〇」がテーマです。

「ぬぐっ、そっちか!」と言わずにいられませんでした。

 余の年ならいざ知らず、今年はもうKAC20219で検索したら「テント」「ごはん」「原付」のお話しか出てこなくてもいいじゃないですか!

 くそう。「キャンプ」で書いてやる。一人で行けば文句はあるまいっ!

 ……と、それはそれとして。


『ソロ』を感じる小説の読書エッセイで、一つ書かせていただきたいとおもいます。自分で書く前の、自分自身の頭の中の『整理』も兼ねて。


◇◆◇


☆【ソロ宇宙の旅】

『たった一つの冴えたやり方』(ジェイムズ・ティプトリー・Jr.著)

 誕生日に両親からもらった小型宇宙船で、たった一人、16歳の少女コーティーは誰にも内緒で旅立つ。広大な宇宙をたった一人で旅する彼女は旅の途中で『友達』とであう……


 SF。1985年初出。原題『The Only Neat Thing to Do』というこの小説が、かくも美しい日本語タイトルに出会ったこと。それが日本のSFファンにとって何よりの幸運でした。

 このタイトルが胸に響いた方。どんな小説なのだろうと、ウィキペディアへ粗筋を読みに行ってはいけません。買っても借りてもいいからとにかくページを開いてください。「この小説を読み終わる前にハンカチがほしくならなかったら、あなたは人間ではない」なんて、ある意味物凄い書評がありましたが、もちろん絶対に泣かねばならぬという話でもありません。確かなことは、この小さな物語には、読み終えた人にそんな書評をうっかり書かせてしまうほどの『力』があるということなのです。

 お題の『ソロ〇〇』というか『一人旅』をテーマとする物語の醍醐味はやはり『予期せぬ出会い』と『たった一人で対処しなくてはいけないピンチ』。

 そこは間違いなく堪能できます。


☆【ソロサバイバルin異文明生命体が社会を営む惑星】

『E.T.』(ウィリアム・コツウィンクル著)

 いわずとしれたスピルバーグ監督の不朽の名作『E.T.』(1982年公開)。これはそのノベライズです。原作小説とか漫画が映画公開に合わせてクローズアップされるならいざ知らず、あとから作られて映画やゲームのストーリーを補完する立ち位置の「ノベライズ」は添え物的な扱いでそれ自体が評価されることはあまりありません。

 そこを覆して読み物として評価されたのが、ウィリアム・コツウィンクル著の『E.T.』のノベライズでした。

「いや、あの映画はエリオットと仲間たちがE.T.と友達になって守る話じゃないの? どこに『ソロ』……おひとり様要素があるのさ?」

 おっしゃる通り。『E.T.』はファーストコンタクトと少年の成長を描いた映画です。じゃあなにが『ソロ』要素なのかというとノベライズの方はE.T.で書かれているのです。つまりこのノベライズにおける『E.T.』のストーリーは

『異文明生命体の群れの真っ只中にただ一人取り残された異星人学者のサバイバル』

 ――宇宙船に乗り損ねた『彼』は、たまたま出会った異文明生命体(幼生体)の協力の下、身を潜め、食料を確保し、先に住んでいた家畜と格闘し、時々異文明を楽しみ、勝手に電化製品を分解して通信装置を自作して母船との連絡を取ったりしつつ、帰還を目指し異生命体社会を生き抜いていく――うむ。なんという『ソロ』サバイバー。

 この小説、普通に抱いている『E.T.』観が結構揺さぶられますので覚悟の上ご覧ください。

 昔の本なので残念ながら絶版ですが、公立図書館には(名作映画のノベライズということで)意外に残っていたりします。勿論古本市や本屋さんのワゴンセールで見かけたら間違いなく買いの一冊と思いますので、頭の隅に置いていただければと思います。


☆【ソロ潜入諜報員】

『鏡の国の戦争』(ジョン・ル=カレ著)

 東西冷戦がその言葉とは裏腹に陰で火花を散らしていた時代。東ドイツにミサイルが配備されたという未確認情報がもたらされる。事の真偽を確かめるべく、英国軍情報部は潜入調査を企図し、その諜報員として一人の男が選ばれる。その男は戦争中に諜報活動を行い任務中に見捨てられた過去を持っていた……


『ソロ』とは孤独で辛い。特に仕事は。

 そういうタイプの『ソロ』です。また、多くのシーンが「ソロで戦うための準備」に割かれた作品である点もここで挙げた理由です。『ソロ』で戦うためには相応の準備がいると思うのです。

 諜報活動に携わる人間模様をリアルに描いたジョン・ル=カレの作品の中でもひときわリアルで重くて救いがなくてで、それゆえにあんまり売れなかったという本書。面白いんだぞ。ほんとに。

『寒い国から帰ってきたスパイ』もそうですが、ル=カレのスパイ小説はなんというか「敵中に無慈悲に放り出されてひとりぼっち、もう誰も信じられない」感が半端ありません。『おひとり様感』が見てるだけで辛い。苦しい。苦しいからリアルなんてのは安直ですが、そこに描かれる弱さゆえの過ち、弱さゆえの理不尽のやりきれなさが作品世界を貫いていて、私は情報部楽屋裏メタネタより、むしろそこに「リアリティ」を感じます。

「MI5の下級職員からMI6へ転属」というル=カレの経歴から同じく情報部での勤務経験をもつイアン・フレミング原作の「ジェームズ・ボンド シリーズ」と比較されますが、作品の持っている雰囲気というかテイストといおうか、方向性が全く違います。 

 ボンドはボンドで「ソロ敵対組織殲滅」みたいな人で今回のお題に引っ掛かりそうなキャラではありますが。

 そういえば、ダニエル・グレイグ次でボンドは最後らしいですね。寡黙でタフでクールなボンド像を作り上げ、記念すべきシリーズ第一作『カジノロワイヤル』を原作寄りで完璧な映画にしてくれた最高の『007』でした。……卒業後でいいから、やってくんないかな『寒スパ』のリーマス。


☆【ソロスクールライフ】

『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(渡航著)

 様々な人生経験の結果「ボッチであること」に、その類まれな全能力を傾ける高校2年生・比企谷八幡を主人公としたラブコメ。

 みんな知っている有名作なのでたぶんこの端折り方でも大体伝わると思います(笑)


『ソロ』と『ぼっち』の何が違うかといえば、本人が能動的であるか否か。

 なってしまうのが『ぼっち』で、自分からなりにいくのが『ソロ』。

 そのあたり、比企谷はなってしまった『ぼっち』ではあるけれど、それを維持しようとしている点で最早『ソロ』だと思います(笑)

 ざっくりですがラブコメは人間関係の構築・組み換え・発展あるいは解消や崩壊をテーマにするジャンル。そのような物語において、集団行動が当たり前の学生生活を送りながら、群れから離れて『ソロ』でいること、あるいはあえて人間関係を制限して『ぼっち』であることは、登場キャラクターの性格や立ち位置を設定するためのファクターとしてラノベでもよく用いられます。カクヨムでもなろうでもよく見かける設定ですが、ぼっちでいたいといいつつ、最後は絆されるケースが多いのは「人はひとりでは生きられない」というあの歌詞が真実だからでしょうか。

 

☆【ソロキャンプ】

『ゆるキャン△』(あfろ著)

 小説じゃないけど、これを出さないとウソになるだろうという事で。


 主人公の一人「志摩リン」の趣味は「ソロキャンプ」それも一人以外でキャンプをしたことがないという筋金入りの『ソロ』。そんな彼女がその日キャンプに赴いたのは晩秋の本栖湖。5℃という普通の人間なら建物に入るか冬眠するかという気温にも冷静に薪を集めて焚火を始める彼女。ここで彼女は来る途中に見かけた生き倒れ(みたいな)同世代の女の子のことを思い出します。さすがに帰ったかと思ったその子はそのまま寝続けていたみたいで、危うく遭難するところでした。引っ越したばかりとはいえスマホも持たず家電もわからず、勿論自分の電話番号もわからないという、筋金入りの迷い人。登山もキャンプも行くだけで命取りになりそうな人物。しかしそんな彼女のどこが引っかかったのか、リンと遭難者(仮)改め 各務原なでしこは友達になり、旅とキャンプの日々を共にしていくことになります。

 友人たちとのキャンプを経験しながらも、黙々と「一人でできる」系スキルを積み上げていくリンとキャンプそのものの基礎を学んでいくなでしこ。やがて、なでしこは自らも「ソロキャンプ」に挑むことになる。


 ――というあたりのアニメ第二期は本当に楽しかった。石束の山体験は「休みを取って歩けるだけ歩く」だったので、二人のゆっくりとある意味贅沢なキャンプは目からうろこでした。そして「長く歩くために何を削るか」しかなかったために山から遠ざかってた自分に「そうか。これでいいんだ」と気づかさせてくれました。

 ――俺、休みもらえたら、食って寝るだけのキャンプに行くんだ。


「ソロでいるための準備」が本当に丁寧に描かれている点が楽しいマンガでありアニメ。勉強になるのではなく、行ってみたくなるやってみたくなるであり、読んだ後でキャンプに行ってきた気になる(笑)作品でした。

『ソロ』は寂しく過酷なのではなく穏やかで静かで豊かな時間。だからこそ誰かとの時間が愛おしくなって寄り添いあい、そして、またその温かさを抱えて一人の旅に行く。

『ゆるキャン△』の『ソロ』は、そんな循環の中にある幸せな『ソロ』。


「ソロキャンプは自分ひとりで完結させる遊びである。ひとり故、不便もすべて背負い込む。逆に言えば自由もすべて享受できる。」

とはソロキャンの伝道師「ヒロシ」さんの名言(『ヒロシのソロキャンプ~自分で見つけるキャンプの流儀』より)です。


 今回はこれまで。意外にスルスル思い出せるなあ。おひとり様系小説とマンガ(笑)

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