サブアカでソロヒーラーしてた俺、どちゃシコアーチャーとフレになる。「一度、会ってみませんか?」と誘われ、ゲームとリアルは違うよね……とか思いつつホイホイ会ってみたら!

kattern

第1話

「絶対女の子とかない。釣り確定でネカマが出てくる奴。腹立ったから、面と向かって文句言ってやらんと気がすまねえ。くそっ、男子高校生をおちょくりやがって」


 休日の繁華街。

 駅からすぐの所にあるゲームセンターの前で俺は呟いた。


 待ち合わせ。手には猫のぬいぐるみ。

 俺がやり込んでいるオンラインゲームのマスコットキャラクターだ。

 そんな目印を用意するということは分かる人には分かるだろう。


 これから俺は人生で初めて、オンラインの友人とオフで遊ぼうとしていた。


 けれども心は灰色。

 言うほどウキウキしない。


 というのも、これから遊ぶ相手がネカマ濃厚、よくて効率厨根暗オタ女子、釣られちゃったのプギャー確定な相手だったからだ。


「そりゃ、シノさんはいい人だよ。性別偽ってるのは許せないけれど、それを抜きにしたら、普通に友達にはなりたいさ。けど、やっぱりなぁ……」


 シノさん(自称JK)とはオンゲで知り合った。

 高校生ながらそのオンゲをやり込んでいた俺は、プレイスキルの向上の為にサブアカで支援職の使い勝手を確認していたんだ。


 俺のキャラはヒーラー。第一線でも申し分なく使えるレベル。面倒くさいのでクランには参加してない。メインで敵対してるクランに入ったら普通にスパイだからね。

 なので、サブアカではソロプレイをしてたんだ。


 シノさんと出会ったのはほんと偶然。

 森で収集クエスト消化てたら、ゴブリンの群れにボコられてるシノさんを見つけたんだ。そこを持ってた煙幕玉でゴブリンを撒き、洞窟まで運んで手当てした。


 そしたら、なんかスゲー感謝されちゃってさ。

 ありがとうございます、貴方は命の恩人ですとか、すっげーベタベタなこと言ってくるんだよ。THXとか顔文字打てばいいのにさ。


 そんな反応がちょっと面白くて、あと使ってるキャラの装備がどちゃシコくて、つい話し込んじゃったんだよね。

 そしたら、なんか懐かれてその日にフレになってた。


 彼が使ってるキャラはアーチャー。種族はエルフなんだけれど、このゲームのエルフって胸が結構おおきくなるんだ。そんなだから、女子プレイヤーからはクッソ嫌われてて「メスエルフ使う奴は中身ぜってーオス」とか言われてんの。


 そういう文化もあるから、まぁ中身は男なんだろう。

 しかも効率厨。エルフだとアーチャーのジョブに補正が入るからそれ狙い。

 きわどい衣装を着てるのも、彼のレベルだと一番敏捷高くなる奴なんだよな。


 なんて、プレイスキルは未熟だけれどガチでやってる人だと思ってた。


 あと、このゲームって顔もカスタムできるんだけど、それが結構俺のツボな感じ。


 男だけれど、たぶん趣味は合う。

 友達になれるかなって、思ったんだ。


 だからまぁ、がっかりしてもいいかって、つい誘いに乗っちゃった。


 バカだよなほんと。

 こんなだから、リアルでぼっちなんだな、俺。


「まぁいいや。シノさんに詫びさせてそれで手打ちにしよう。それより、今日はどうするかな。二人で遊ぶってなにすればいいんだろう」


「……あ、あのぉ、すみません」


「……はい?」


 誰かが俺に声をかけた。

 なんだか心細い、心底困ったような声。

 おそらくもなにも間違いなく女の子だ。


 流石にぼっちでも女の子は放っておけない。すぐ、俺はその声の主の方を向いた。


 すると――。


 ちょっと、びっくりするほどの美少女が、そこに立っていた。


 ボリューミーで艶やかな長い黒髪。絹のようになめらかで白い肌。背丈は女の子にしてはちょっと高い。発育がよくって、服から出ている部分がむちむちとエロい。もちろん、胸もお尻もすごい自己主張。見るだけでその柔らかさが伝わってくる。


 健康優良系美少女。

 そんな彼女が黒いワンピースの制服に身を包んで立っている。

 あ、その制服、確か有名なお嬢様学校の奴だ。


 えっ、けど、なんでそんな子が俺に声をかけてくるの?


 え? 何かの罠? ドッキリ?

 

「あの、えっと。もし、勘違いだったら、ごめんなさいなんですけど」


「勘違い?」


「コロコロちゃんですか? あの、私、シノです」


「……シノさん⁉」


 俺の叫び声に、ひうっとかわいらしく驚くシノさん。

 彼女はふるふると肩を震わせながら、そっと手を前に出す。


 その手に持っているのは間違いない。

 俺のと同じぬいぐるみ。

 待ち合わせの目印だ。


 間違いない。

 この目の前の美少女こそ今日の俺の待ち人だった。


 信じられないけれど。


「嘘でしょ⁉ シノさんって本当に女子高生だったの⁉」


「そ、そうですよぉ。プロフィールに、書いてたじゃないですかぁ」


「いやプロフなんて嘘書いてるのが当たり前で、正直に書く奴なんていませんよ! 俺だってほら、現役JKって嘘書いてるし――」


 って、あぁ。

 もしかして、すぐにシノさんが俺に懐いたのこれが理由か。

 逆に俺がやっちまってたのか、これ。


 そう。


 サブアカでヒーラーだし男キャラもどうかなって、俺は女キャラを使ってたんだ。

 勘違い防止のために、女アピールすれば気づくだろうと、現役JKとかプロフに載せてたんだった。


 これで釣られるアホはいないだろ。

 いったいどんな初心者だって。


 そしたら――。


「コロコロちゃん、チャットで男っぽい話し方するなって思ってたけれど。本当に男の子だったんだね」


「え、あ、はい。スミマセン」


「……ちょっとびっくり。けど、オンラインゲームだと、こういうの当たり前なんだよね。実は、私、オンラインゲームってはじめてで」


「極めてレアなケースです! ごめんなさい!」


 でかすぎる鯛が釣れてしまったわ。

 別に釣るつもりなんてなかったのに釣ってしまったわ。


 あまりにもいろんな意味でご立派すぎて申し訳なさ過ぎるわ。こんなん、ラッキーとか素直に喜べる奴、どうかしているよ。


 こんなドスケベボディ天然お嬢様JK、釣れてしまったら逆にひくよ。

 童貞男子高校生には身に余る案件だよ。


 誰か助けて――。(白目)


 違うから。

 そういうんじゃないから。

 性別詐称して女の子と仲良くなろうとか、そんなんじゃないから。

 たまたま、たまたまこうなっただけだから。


 けど、それにしたって、クソ過ぎるよ俺!


 こんなん女の子にしたら恐怖以外のなにものでもない展開じゃん。

 はい、ワンチャンもクソもありません。即こんなの豚箱行きですわ。


 死。


「あ、あの、コロコロちゃん?」


「はい、そうです、俺がコロコロです。メスヒーラーでコロコロを名乗り、いたいけなガチJKと友達になった、16歳男子高校生Aですごめんなさい」


「あ、同い年なんだね」


「反応するところそこですか⁉」


 えへへと天使のように笑うシノさん。

 うわ、リアルでも反応が天使だ。チャットしてる時も、割とオンゲやってる人にしては穏やかな反応するなと思ってたけれど、これも素だったんだ。


 なんだよ、少しも偽る成分ないじゃないか。

 100%素の状態でプレイしてたんじゃないか。


 そんなことってあります。オンラインゲームって、リアルでなれない自分になるところでしょう。素の自分を持ち込むなんて、思うわけないじゃないですか。


 そして、そうと分かれば、これまでのオンゲでの付き合いから、シノさんってば天使確定なんだよな。いい人だってのはプレイングからあきらかなんだな。


 知ってる、だからフレになったし、つるんでたし、会おうってなったんだから。


 尚のことTUREEEEEEE!


「……うぅっ、ごめん、ごめんなさい、シノさん。俺、そうとは知らず、こんな形で君のことを裏切って」


「う、ううん、そんなことないよ! 男の子なのはびっくりしちゃったけど、実際に話してみたら、やっぱりコロコロちゃんだなって」


「え、ほんと?」


「そうやって、コロコロ泣いたり笑ったりするの、コロコロちゃんだなって」


 そですね。

 サブアカではそういう感じのキャラでしたね。

 メインではクランのチームリーダーしてるから、なんか精神年齢高めのキャラ演じてるけれど、君とは割と気ままにやってましたからね。


 けど、そんな俺の態度が、余計に彼女を騙していたと思うといたたまれませんわ。


 詫び方が分からず固まる俺。そんな俺の手を、そっとシノさんが握りしめる。

 俺みたいなクソ男子に触れるなんて汚らわしい、そう思ったのだけれど、シノさんは優しい笑顔をこちらに向けてきた。


「あらためて、はじめましてコロコロちゃん。私、シノです。会いたかったよ」


「俺も、会いたかったです。シノさん」


「それでね? もしよかったら、私とお友達になってくれるかな?」


 ぎゅって俺の手を握りしめるシノさん。


 そんな風に求められたら、返事なんて選べないよ。


「……は、はい。よろこんで」


「本当? やった、嬉しい……」


 えへへとくすぐったそうに笑うシノさん。

 こんな気持ち悪いネカマ野郎と、友達になって何がそんなに楽しいんだろう。


 そう思うけれど、どうしてだろう。

 俺もなんだか、心の内から溢れてくる喜びに思わず笑っていた。


 かくして俺の曖昧なまま続いていたオンゲソロ活はここに幕を閉じた。


「あ、そうだ! これから何するか考えてます?」


「え? いや、ノープランだけれど」


「それじゃぁ、ネカフェに行きません? 私、実は行ったことがなくって!」


「別にいいですよ」


「あと、コロコロちゃんってアーチャー使えるんですよね? よかったら、プレイのコツとか教えて貰えますか?」


「え?」


「ちょうどペアシートの割引券をお姉ちゃんから貰ってて。男友達と使いなよって言われたんですが、使う相手がいなかったんです」


 コロコロちゃんが男の子でちょうどよかったです。

 なんて、曇りなき笑顔で言うシノさん。


 もちろん何も深い意味なんてない。

 ないんだけれども。


「それは、流石にエッチすぎるような」


「……え? おかしいんですか?」


「ぜんぜんおかしくない、おかしくないんだけれど、あのね……」


 やっぱり、ちょっと純粋すぎるよ、シノさん。


 これから始まる、無防備すぎるムチムチ清楚JK親友との距離感が分からないお付き合いは、俺がこれまでやったどのゲームよりも難易度が高くなりそうだった。


【了】

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