男子が揃いも揃ってサボったせいで悲惨な事になったんだからな!

無月兄

第1話

 自分が中学生だった頃の話です。

 自分の通っていた中学校では、毎年冬になると、合唱コンクールが行われていました。内容は、そう特別なものではありません。一年生から三年生までの全ての生徒が体育館に集まり、各クラス毎にステージに上がっては、それぞれ課題曲を歌うというものでした。

 開催される少し前から、音楽の授業はこの練習一色となり、それ以外にも、一部授業を使って練習時間が設けられるようになりました。おそらく、似たような行事は全国どこにでもあるでしょう。


 ただこの合唱コンクール、生徒達がみんな頑張って取り組んでいたかと言うと、決してそうではありません。むしろほとんどの生徒は、学校行事だから一応やってるみたいな、極めて消極的な感じでした。


 これが学園モノの漫画やドラマや小説なら、「みんなで優勝目指すぞ、イェーイ!」なんて言ったり、クラスで孤立しているちょっと不良っぽい子が「そんなのやってられっかよ」などと反発し、なんだかんだで最終的にはみんなの輪の中に入っていく、なんて展開もあるでしょう。しかし、現実はそんな陽キャなノリでもドラマチックでもありません。

 もちろん自分も、何の思い入れも無くダラダラと参加していました。


 しかしそんな中、ある日の放課後、帰りの会で我がクラスの担任の先生が言いました。


「明日の朝、合唱コンクールの練習をすることにした。みんな、いつもより一時間早く学校に来るように」


 これには、当然生徒達は大ブーイング。そりゃそうです。元々やる気なんてないところに、さらに練習時間が増える。しかも、一時間も早く学校に来なければいけない。元々やる気なんて無いのに、どうしてそんなことをしなければならないのでしょう。

 しかし一度先生が決定したとなると、生徒が何と言おうと覆すのは無理。結局、朝の練習は開催されることとなりました。


 そして翌日。いつもより一時間早く目覚ましをかけ、眠い目をこすりながら我が家を出ます。本当は行きたくなんてないけれど、サボって怒られるのが嫌という、極めて受け身な姿勢で練習に挑む事になりました。

 それから学校に到着。練習場所として指定された音楽室に向かうと、既に何人かの生徒が集まって……いませんでした。時計を見ると、言われていた時間よりまだ15分程度早いです。遅刻しないようにと、少々早く来すぎてしまったようです。

 こんなことなら、せめてあと5分か10分だけでも寝ておけばよかったな。って言うか、誰もいない学校に自分一人というのは、精神的に結構きついものがある。そう思っていると、ようやく他の生徒達もポツポツとやってきました。


 自分の次にやって来たのは、一人の女子生徒でした。同じクラスとはいえあまり喋ったことはありませんが、一人で待つより、同じ空間に誰かがいてくれるというだけで、少しは寂しさが紛れます。

 次に来たのは、学級委員をやっている女子でした。学級委員=マジメなんて構図が必ずしも成り立つとは限りませんが、彼女は遅刻もせずにしっかりやってきました。

 次に来たのは、女子三人です。どうやら途中でバッタリ会って、それから一緒に来たようです。


 —――と、このあたりで、そろそろ言われていた時間がやってきます。しかしやって来た人数はまだクラス全体の半分にも足りません。クラスの半分以上の人がサボっていたのです。

 ですがこれは、ある程度予想がついていた事でした。あれだけみんな嫌がっていたのですから、来ない人の一人や二人や三人や……十数人くらいいると、簡単に見当がついたのです。


 自分は一応来たとはいえ、サボった人達の気持ちはよく分かります。自分とその人達の違いは、サボる勇気があったか無かったかだけです。だから、サボったからといってその人達を責める気持ちはありませんでした。


 ただ……ただですね。ひとつだけ、ちょ~っと問題がありました。

 改めて、やって来た人たちの顔ぶれを見ながら思います。男子が自分一人しかいない!


 こういう時、大抵の場合女子の方が男子よりも真面目です。しかしまさか、自分以外に男子が誰も来ていないというのはさすがに予想外でした。

 ハーレムみたいでいいじゃないか、などと言ってる場合ではありません。これから自分達は、合唱の練習をするのです。合唱というのは、いくつかのパートに分かれていますよね。うちのクラスの場合、男子のパートと女子のパートに分かれていました。そして合唱の練習の合間には、必ずと言っていいほど、各パート単位で練習する時があるのです。

 そんな中、男子が一人だけというのがどんな事態を引き起こすか。具体的に言うとこうです。


 先生「まずは全員で歌ったから、次は女子のパートを歌ってみよう」→歌い出す女子達。

 先生「じゃあ次は、男子のパートを歌おうか」→歌い出す男子達……とはなりません。男子は自分一人しかいないのですから、『達』ではなく、完全に自分がソロで歌うことになるのです。こんなの、ただの晒しものです。

 ちなみに、自分は音痴です。


 こんなことになるなら、自分もサボればよかった。そう思ってももう遅いです。

 それならせめて、誰か一人でもいいから男子生徒よ来てくれ。気がつけば、そんなことを祈っていました。せめて一緒に歌う男子が後一人でもいてくれたら、少しは辛さも軽減できるのに。


 しかし無情にも男子生徒は現れることなく、次に姿を見せたのは先生でした。


「なんだ、これだけしかいないのか。しかたない。とりあえず、それぞれのパートに分かれるように」


 いや、あの……それぞれのパートって、男子は自分一人しかいないんですけど。


 もはや絶体絶命かと思われたその時でした。音楽室の扉が開き、北野君(仮名)という、一人の男子生徒が現れたのです。


 やった、ついに待ち望んでいた男子だーーーっ!








 ~10分後~



「じゃあ次は、男子のパートを歌おうか」


 先生がそう号令を出すと、間もなくピアノの伴奏が始まります。そして、歌い出す男子達……とはなりません。『達』ではなく、完全に自分がソロで歌っていました。ただの晒しものです。メチャメチャ恥ずかしかったです。心なしか、クスクス笑う声が聞こえてくる気がします。


 えっ、北野君はどうしたのかって? すっかり忘れていましたが、彼はピアノの伴奏担当だったのですよ。






 ちなみにこの朝の練習。翌日は隣のクラスがやっていました。隣のクラスにいる自分の双子の弟は、他の男子が全員サボっていたため、男子のパートをソロで歌うハメになったそうです。

 ……弟よ、お前もか。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

男子が揃いも揃ってサボったせいで悲惨な事になったんだからな! 無月兄 @tukuyomimutuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ