四半世紀以上前から続く明晰夢のお茶会

第１８会 結構可愛いじゃない

　ん？

　今日（きょう）はお城（しろ）の夢（ゆめ）か……。

　しかし、兵士（へいし）はチラホラいるものの何（なに）かを慌（あわ）てて探（さが）しているようだ。

　「何探（なにさが）してるんですか？」

　「お前（まえ）も探（さが）せ！

　我（わ）が国（くに）の王女様（おうじょさま）が行方不明（ゆくえふめい）になられたのだ！」

　「落（お）ちてるものでもなかろうに……。」

　「国力（こくりょく）に関（かか）わる問題（もんだい）なのだぞ！」

　「はぁ。

　ところでその王女様（おうじょさま）とやらはどんな容姿（ようし）をされているので？」

　「何（なに）！？

　お前王女様（まえおうじょさま）を知（し）らないのか！？」

　「（やばっ、侵入者（しんにゅうしゃ）とか思（おも）われたか？）」

　「まぁ、平民（へいみん）にはお目（め）にかかる機会（きかい）もなかろう。

　そこの絵画（かいが）を見（み）てみろ。

　あのお方（かた）が王女様（おうじょさま）だ。」

　「ふむ……。」

　「あぁ、困（こま）った困（こま）った！」

　それだけ言（い）い残（のこ）すと兵士（へいし）は王女探（おうじょさが）しに戻（もど）って行（い）ってしまった。

　「星空（ほしぞら）のローブよ、王女（おうじょ）の場所（ばしょ）まで我（われ）を導（みちび）き給（たま）え……。

　ってーのは無理（むり）があるかぁ。」

　ふわぁ……、と浮（う）き始（はじ）める身体（からだ）。

　「わっ、やばい！」

　超速（ちょうそく）で飛（と）ぶかと思（おも）ったら歩行速度程度（ほこうそくどていど）で済（す）んでよかった。

　とある部屋（へや）の中（なか）に入（はい）ると、本棚（ほんだな）の前（まえ）にストンと落（お）とされる。

　「どうやら、隠（かく）し扉（とびら）か。」

　綺麗（きれい）に並（なら）んでいる本（ほん）だが一冊（いっさつ）だけ埃（ほこり）まみれの本（ほん）がある。

　軽（かる）く押（お）してみると本棚（ほんだな）が横（よこ）にずれ、下（した）に下（くだ）る階段（かいだん）が現（あらわ）れた。

　「王族（おうぞく）しか知（し）らなそうだな、これ。」

　歩（あゆ）みを進（すす）める。

　「……どなた！？」

　「王女様（おうじょさま）、お迎（むか）えに上（あ）がりました。」

　「あぁ、貴方（あなた）なの……、驚（おどろ）かせないでよ。」

　「は？」

　見（み）た目（め）は２０歳（さい）くらいの女性（じょせい）だ。

　しかし見覚（みおぼ）えがない。

　だが、向（む）こうは僕（ぼく）を知（し）っているようだ。

　幼少期（ようしょうき）にでも夢（ゆめ）で会（あ）ったかな？

　「なぁに？

　分（わ）からないの？」

　「あれ？

　その口調（くちょう）……、もしかしてリーフェ！？」

　「あたりー。

　で、追（お）われてたからここに逃（に）げ込（こ）んだってわけ。」

　「何（なん）で追（お）われてたの？」

　「結婚（けっこん）しろって。」

　「ほう。」

　「一言（ひとこと）で片（かた）づけるなっ。

　そもそもこんなに身体（からだ）が成長（せいちょう）している事（こと）も異常（いじょう）なんだけど。」

　「何（なん）で？」

　「知（し）らないわよっ。

　貴方（あなた）のせいとしか思（おも）えないわ！」

　「王女様（おうじょさま）！

　こんなところにおられましたか！」

　「げっ、バレた。

　王族直属（おうぞくちょくぞく）の近衛兵（このえへい）だ。」

　「そこのお前（まえ）、大儀（たいぎ）であった。

　お前（まえ）には王女様（おうじょさま）の護衛任務（ごえいにんむ）を遣（つか）わす。

　しっかり果（は）たすように。」

　「へ？」

　「へ？　ではない。

　場合（ばあい）によっては王女様（おうじょさま）の婚約相手（こんやくあいて）にもなるのだからな。

　しっかりしろ。」

　「はぁぁぁ！？」

　「頭痛（あたまいた）くなってきたわ……。」

　結局隠（けっきょくかく）れていた場所（ばしょ）もバレてしまい、王女（おうじょ）の部屋（へや）に通（とお）される二人（ふたり）。

　「なんか、ごめんリーフェ。」

　「いいわよ、貴方（あなた）なら変（へん）な事（こと）しないでしょうし。」

　「まぁ、しないねぇ……。」

　「お茶（ちゃ）にしましょう。

　こういう時（とき）はサッパリ忘（わす）れるのが一番（いちばん）だわ。」

　「はいな。」

　「あ、久（ひさ）しくエルダーフラワーのお茶（ちゃ）が飲（の）みたいわ。」

　「ほい。」

　ハーブティーを手際（てぎわ）よく準備（じゅんび）すると、リーフェはクッキーを用意（ようい）してくれた。

　「……あ。」

　「どしたの？」

　「この姿（すがた）になって鏡見（かがみみ）たことなかったけど、私（わたし）ってば結構可愛（けっこうかわい）いじゃない。」

　「それ、自分（じぶん）で言（い）う？」

　「貴方（あなた）はどう思（おも）う？」

　「……まぁ、美人（びじん）だとは思（おも）いますけど。」

　「素直（すなお）でよろしい。」

　「時（とき）に双葉（ふたば）に陽菜（ひな）はどうしてる？」

　「呼（よ）べば来（く）るわ。

　貴方（あなた）がそうしてないだけ。」

　「あぁ、そう。」

　「おいお前（まえ）！」

　「ん？」

　「王女様（おうじょさま）に向（む）かって何（なん）だその口（くち）の利（き）き方（かた）は！」

　「……私（わたし）がそうしろって言（い）ったのよ、これは命令（めいれい）よ。」

　「し、失礼（しつれい）しました！」

　ドアがついていない入（い）り口（ぐち）から怒声（どせい）を飛（と）ばした近衛兵（このえへい）は引（ひ）っ込（こ）む。

　「アハハハハッ！」

　「リーフェ……。」

　「いいじゃない、私（わたし）たちの仲（なか）でしょう？」

　「今（いま）は王女様（おうじょさま）なんだからそれなりの振（ふ）る舞（ま）いをですね……。」

　「いーや。

　振（ふ）る舞（ま）いなら今（いま）したでしょ？」

　「あぁもう。」

　「王女（おうじょ）よ、その男（おとこ）に入（い）れ込（こ）んでいるようだな。」

　「げっ……。」

　「夢（ゆめ）にしちゃよく出来（でき）てるな。

　どちら様（さま）？」

　「……パパ。」

　「は？

　だってリーフェは数百年生（すうひゃくねんい）きて……。」

　「そうなる前（まえ）の時期（じき）みたいなのよね、ここ。」

　「えぇーっ！？」

　「その男（おとこ）が気（き）に入（い）ったか？

　婿（むこ）にしてやっても構（かま）わんのだぞ？」

　「あ、あー……。

　この人妻帯者（ひとさいたいしゃ）だからダメというか。」

　「なら離婚（りこん）させればよかろう。」

　「あーもう！

　パパって何（なん）でそう短絡的（たんらくてき）なのよ！」

　「離婚（りこん）なんて僕（ぼく）も嫌（いや）だ。」

　「貴様（きさま）、遊（あそ）びでエシェンディアに手（て）を出（だ）したという事（こと）か！？」

　「ま、まさか！

　……って、エシェンディア？

　誰（だれ）？」

　「手（て）は出（だ）されてない！

　第一（だいいち）、私（わたし）の名前（なまえ）はリーフェ！

　エシェンディアじゃない！」

　「何故（なぜ）だ？

　エシェンディアだろう？

　何故名前（なぜなまえ）を隠（かく）す？」

　「あ、あー……、それは私（わたし）がこの名前（なまえ）を気（き）に入（い）ったから！」

　「リーフェ、名前（なまえ）あったんじゃん。」

　「生（い）きてる間（あいだ）は、ね。」

　「あー、そういう事（こと）……。」

　「では、エシェンディアの方（ほう）が手（て）を出（だ）しているということか？」

　「そうよ！

　……どっちかって言（い）ったら私（わたし）の方（ほう）がちょっかいかけてる。」

　「ふむ。

　そこのお前（まえ）、ちょっと来（き）てくれんか。

　エシェンディアに相応（ふさわ）しいかテストをしたい。

　そうでなければ今（いま）のままを続（つづ）ければよい。」

　「はぁ。」

　「嫌（いや）な予感（よかん）がするからついてく。」

　連（つ）れてこられたのは訓練施設（くんれんしせつ）だ。

　嫌（いや）な気（き）がする。

　ただ、視線（しせん）のせいかもしれないしあまり気（き）にならないかな。

　「ほぉ、ここに来（き）ても臆（おく）せんとはな。」

　「え？」

　「ここ、特殊（とくしゅ）な結界（けっかい）が張（は）られてる。

　通常（つうじょう）の人間（にんげん）なら精神崩壊（せいしんほうかい）するわ。」

　「嫌（いや）な感覚（かんかく）はそのせいか。」

　「ロイヤルウィザードレベル９９、ここへ来（こ）い！」

　「はっ、こちらに。」

　「あっ、パパそれはやめて！」

　「何（なに）がだ。

　レベル９９だからと言（い）って殺（ころ）すわけではない。

　ただテストをするだけだ。」

　「逆（ぎゃく）！逆（ぎゃく）なの！」

　「何（なに）を訳（わけ）のわからんことを。

　やれ！」

　「はっ！」

　呪文（じゅもん）が詠唱（えいしょう）され、大地（だいち）を響（ひび）かさんとする程（ほど）の火球（かきゅう）が召喚（しょうかん）される。

　「（あれ？　これでレベル９９？

　リーフェの方（ほう）が万倍強（まんばいつよ）くないか……？）」

　「……星空（ほしぞら）のローブよ、力（ちから）を貸（か）してくれ……！

　その煌（きらめ）きを我（わ）が眼前（がんぜん）に示（しめ）せ！」

　バキバキバキッと音（おと）がして僕（ぼく）の足元（あしもと）が砕（くだ）ける。

　バァン！と音（おと）がしたかと思（おも）うと火球（かきゅう）はあっという間（ま）にかき消（け）されてしまっている。

　「なっ！？」

　「これ以上は喧嘩（けんか）だよ。

　どうする？」

　「ロイヤルウィザードの、

　それも最高（さいこう）のレベル９９の魔法（まほう）をかき消（け）しただと……！？」

　「な、何（なに）かの間違（まちが）いだ！」

　再（ふたた）び召喚（しょうかん）される火球（かきゅう）。

　気付（きづ）くと攻撃対象者（こうげきたいしょうしゃ）が目（め）の前（まえ）にいない。

　「あ、あれ！？」

　「僕（ぼく）のレベルっていくつなんだろうなー。

　明晰夢（めいせきむ）で鍛（きた）えたから、倍（ばい）は行（い）かなくともそれ近（ちか）くはあるんじゃないのー？」

　真後（まうし）ろで聞（き）こえる攻撃対象者（こうげきたいしょうしゃ）の声（こえ）。

　「はっ！？　早（はや）い！」

　「やめい！　危険（きけん）だ！」

　「は、ははっ！」

　火球（かきゅう）が消（き）え、ロイヤルウィザードが下（さ）がる。

　「お主（ぬし）は何者（なにもの）だ？

　平民（へいみん）が何故（なにゆえ）かような力（ちから）を持（も）っている？」

　「ま、ただのおっさんですよ。

　空（そら）を飛（と）ぶ事（こと）と魔法（まほう）を使（つか）う事（こと）、夢（ゆめ）だったんで。

　エシェンディア王女（おうじょ）とは結婚（けっこん）できませんがね。」

　「いや、尚更結婚（なおさらけっこん）してもらわねば困（こま）る。

　こんなに強（つよ）い逸材（いつざい）が眠（ねむ）っていようとは。」

　「ばかー！

　本気出（ほんきだ）してどうすんのよ！

　こうなることくらい予測（よそく）つくでしょうが！」

　「あ、ごめん。」

　「エシェンディアよ、この男（おとこ）の何（なに）が気（き）に入（い）らん？

　これ程（ほど）までに強（つよ）ければこの周囲一帯（しゅういいったい）の領土（りょうど）は我々（われわれ）の手（て）に落（お）ちたようなものだ。

　国力（こくりょく）を高（たか）めたいとは思（おも）わんのか？」

　「その人（ひと）、存在（そんざい）が不確定（ふかくてい）なのよ。

　来（こ）れるときと来（こ）れないときがある。

　第一（だいいち）、一介（いっかい）の戦士（せんし）に全（すべ）てを押（お）し付（つ）ける戦略自体（せんりゃくじたい）が間違（まちが）っていると思（おも）わなくて？」

　「む、確（たし）かに。」

　「私（わたし）たちが守（まも）るものがあるようにその人（ひと）にも守（まも）るものがあるのよ。」

　「国民（こくみん）であれば国（くに）を守（まも）るのが第一（だいいち）であろう？」

　「だーかーら！

　その人（ひと）はこの国（くに）の人間（にんげん）じゃないの！

　西暦（せいれき）２０２１年（ねん）の人間（にんげん）なの！」

　「何（なに）？　未来人（みらいじん）なのか？」

　「そう。

　私（わたし）が死（し）んだ後（あと）、幽霊（ゆうれい）になって将来（しょうわい）お役目（やくめ）を貰（もら）って憑（と）りつく人（ひと）よ。

　ここは過去（かこ）。

　私（わたし）が生（い）きていた時代（じだい）の。

　だから、パパ。

　ごめんね。」

　「エシェンディ……」

　そう言う王様（おうさま）と周囲（しゅうい）はすべて泡（あわ）となって溶（と）けていき、気付（きづ）くといつものリーフェの部屋（へや）にいた。

　「はぁ、嫌（いや）な夢（ゆめ）を見（み）たわ。」

　「リーフェの過去（かこ）を垣間見（かいまみ）た。」

　「見（み）られたくなかったわ、出来（でき）るなら。

　エシェンディアって名前（なまえ）も知（し）られたくなかった。」

　「お姫様（ひめさま）だったんだね。

　そりゃ財力（ざいりょく）に困（こま）らないわけだ。」

　「ん、まぁ。」

　「……あれ、リーフェ縮（ちぢ）んでる。」

　「そりゃ、ここに来（き）たらね。」

　「因みに、何（なん）て国名（こくめい）だったの？」

　「それ聞（き）く？

　まぁ、いっか。

　レナンダール王国（おうこく）。

　エシェンディア・レナンダールが私（わたし）の生（い）きていた時（とき）の本名（ほんみょう）よ。

　私（わたし）はリーフェの方（ほう）が好（す）きだけど。」

　「そりゃどうも。」

　「さ、お茶会（ちゃかい）の仕切（しき）り直（なお）しよ。」

　「はーい。」

　王女様（おうじょさま）だったというリーフェの意外（いがい）な一面（いちめん）が見（み）られた夜（よる）だった。