あなたと遊ぶ時に重要な事

まぁち

友達やってて楽しいの?


 中学校から社会人まで関係が続いている友達というのは結構珍しいと思う。

 小学校とか、幼馴染とか、小さい頃以来の付き合いなら割と見てきたけれど、中学校で知り合った友達っていうのは思春期真っ盛りな不安定な時期というのもあって、いざこざや何やらで大体すぐ離れていくものだ。

 まあこれはあたしの持論で、完全に偏見なのだけど、少なくともあたしには当てはまっている事実。


 だから、中学校から現在、社会人に至るまであたしの友達をやってくれてるユウナを、ふとした瞬間に不思議に思ってしまう。

 あたしは面白い事も言えないし、突出した何かもない。流行りのお店もテーマパークにも興味を示さない。

 二人で遊ぶ時に行くのは適当な喫茶店とか書店とか、あてもないドライブくらい。


 少し怖くもあるけど、いつか聞いてみたいものだ。「あたしと友達やってて楽しいの?」って。



 # # #


 中学校からの友達のミホノはウチと違って真面目だ。



「今日、結局足湯行くだけになるけどいいの?」


 ミホノが親からのお下がりでもらった少し古い軽自動車の車内。

 ミホノはカーナビを操作しながら少し申し訳なさそうにウチに訊いた。


「ん。いーよ」

「他にどこか行きたいとかは?」

「ま、それは足湯浸かりながらテキトーにさがそう」

「出たまた適当。ユウナから遊び誘うくせに何も決めてない」


 ミホノは呆れた風に目を細めた。


 ウチとミホノが遊ぶ時、いつも行き先を決めるのはミホノだ。


 ミホノは遊ぶと決めたらどこに行くのかをきちんと決めておきたいみたい。

 ここに行って、ここでご飯を食べて、この時間に帰るとしっかり定めるタイプ。

 ウチは特に何も考えず遊びに誘うので、いつもミホノに行き先を決めてもらっちゃうのである。

 ミホノにしたらそんなウチは不思議に映るみたいで。こういうやりとりをしてると釈然としない顔になる。


「それより最近どうなの仕事の方は。あ、あれ聞いた?同期のどうでもいい仕事の哲学」


 ウチが雑に話題を振ると、ミホノはシートベルトを締めつつ薄く笑った。


「なにそれ」

「新入社員の子に語ってるやついない?「この仕事はこういう気持ちでやらないと続かないから〜」とかしたり顔で言ってるやつ」

「いないし。それユウナのとこだけでしょ」

「えー、社内に一人は湧くから。今度探してみて」

「そんなの探してる暇あったら仕事終わらせてさっさと帰るし」

「そっか、そんなやつ観察してるから残業ばっかなのかぁ」

「それはユウナのとこがブラックなだけ……あ、シートベルトして」

「おぉう、うっかりしてた」


 他愛ない話をしながら準備をして、発進。


 行き先はよく知らない、特に有名でもない足湯。

 ウチのいい加減な提案の中からマシそうな行き先をミホノが選んだ結果、そこが残った。

 本当にここでいいのかという顔をミホノはしているけど、ウチとしてはどこだって構わないんだ。



 中学校から妙にウチらは気が合って、一緒にいて心地良かった。

 きっと偶然、色々な要素が合致していたんだと思う。こうして長年友達をやってこれたのはそういう事なんだ。


 だから場所なんて関係ない。

 重要なのは誰と一緒なのかって事。

 その人との時間を得難い、尊いものだと思える事。


 極論、ウチはミホノに会えればそれでいい。

 そんな事、恥ずかしいというか、多分重いと思われるだろうから言わないけどね。


「じゃ、今日も運転よろしく」

「疲れたらユウナにも運転頼むからね」

「休む暇もないスリルは約束するよ」

「……やっぱやめとく」


 さて、今日もぬぼーっと楽しみますか。

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