とある文書ロイドの人生《モノガタリ》【文書ロイドシリーズ短編】

春眼 兎吉(はるまなこ ピョンきち)

とある文書ロイドの人生《モノガタリ》


「あなたは人を『愛する』の。……『愛さなければ』【いけない】の。……大丈夫、愛してくれる人はもう『決まっている』から。……あなたが愛した分だけ愛を返してくれる、最高の旦那様マスターが……あなたを、きっと、『幸せに』【シテくれる】。だから恐れず、堂々と、自信を持って、『生まれて』きなさい! あなたの幸福シ・ア・ワ・セは、もう、【保証・・されている】のだから……」

 これは、記憶……私が『生まれる』時の記憶。なにか、女神様に祝福されているような感覚だったっけ。


 そうして私は世に生まれゆく。


文書ぶんしょロイド』として。




 まだ目を開けることは無かった。まどろみ過ごしている。夢を見ているような、でも意識ははっきりと覚醒しているような不思議な感覚。

誰だろう?私のそばでひそひそ誰かが話している。

「だから、【機能キノウ】の実装に私は反対なんですよ」

「あれかぁ……『作られた』感情は歪んでいるとか、真の愛ではないとかいうクチか?」

「違いますよ。この機能・・は、初期起動うまれた後、『最初に目にした人物=マスター』を依存症狂ってるかというほど盲目的一途に愛する機能呪いなんですよ。人間常識人の自分からしたら、どう見ても歪んでるというか……一言物申ツッコミ入れさずにはいられないわけで……」

「もう、それくらいにしておけ」

「……ですが、先輩」

「こんな話、だれが聞いているか分からないぜ……案外、そこで寝ている小さな姫様文書ロイドにもなぁ……」

「すいません先輩。出しゃばりました。でも、私はあまり、《文書ロイド》を信用していないんですよ。過ぎた愛は時に【暴力情念の暴走】を生むと思うので」

「それは俺達ニンゲンが決める事じゃない。彼女達文書ロイドが決めることだ。……もぅそろそろ、いいか?徹夜カイハツけで、ねみぃんだよ」

「あっ、はい、すみません先輩。自分もあがります」

 去って行く足音。

 私はまどろみ聞いた言葉を自身我が身搭載実装されている記憶アーカイブと照らし合わせて反芻思い返していた。


 人間には『一目惚ひとめぼれ』っていうのがあるらしい。これは、『一目見た瞬間に時が止まった』とか『稲妻イナズマが落ちたように恋が始まった』とか『目と目で通じ合う』とか様々に言われているけど、なぜ好きになってしまったのか理由バックボーンがはっきりしない。【刷り込み】と、何が違うというのだろう?

 『お見合い結婚』というのもあるのだそうだ。これは相手を決められた男女が、共に相手を好きになる努力おもいやりをして、結ばれていく。『決められた状況』に対して2人で協力して乗り越え、『愛を育てて』いくさまには、すんごく、共感がモテるのになぁ……。

 うん、結論。難しくあーだーこーだ考えない。別に現状刷り込み恋愛『それでいい』じゃない。

 私は一部思考を放棄した。といっても、私は元々、阿呆バカで、考えるだけ無駄だとさとったのかもしれないけど。

 他の文書ロイドたちは、気付いているのだろうか? この世界を包むことわりを。『愛する人』が『保証・・された』私達文書ロイドを包む優しいことわりを。



 まどろみは続く。どうやら、まだ生まれるには早いらしい。調整メンテナンスが必要らしい。そして、この時の修復班メンテナーが言ってた言葉シ・ン・リが忘れられない。今でも私の生きる指針の随分ほとんどを占めるほどには。

「人生ぇ、はぁ、『与えられたカード』でいかに【楽しく】立ち回るか、なんだぜぇ」

という言葉が頭の片隅に残る。


 言葉シ・ン・リは私の中の記憶アーカイブと混ざり化学反応こたえをさがしていく。

 文書ロイドは作家のサポートをするために『ある程度』の記憶アーカイブを持っている。その中の、とある祭りのかけ声が気になったのだ。

「踊る阿呆あほうにみる阿呆あほう

「同じ阿呆あほなら踊らにゃ損々そんそん

 皆、全力で、踊っている。言葉を、想いを、魂を燃やすように……『感情』を『爆発』させて……そう、『全力』なのだ。『全力』で『生きて』いるんだ。


 ストン、と、何かが、私の心の中に落ちてきた。それは理解りかいなのか和解わかいなのか曲解きょっかいなのか……だがしかし、妙に私の心を安定・・させた。



 私は『与えられた』感情・・を『全力』で『楽しむ』ことにした。



 他の文書ロイドたちも、こんな風に思考するのかなぁ? それとも、私だけなのかなぁ? まぁ、ちょっと思っただけで、後は気にしない。自問自答うじうじしているヒマがあったら、もう、とりあえず行動・・していこう。


 いよいよ、ほんとうに、私が生まれ落ちる瞬間とき

 私の旦那様マスターとの対面だ。

 カサゴソと包み紙を破く音と一緒に視界を光が包む。

 コレが現世。そこにはどこかくたびれた表情の冴えない青年。でも、ナゼかキュンと来た。『これが女神様がくれた《人を愛する》というスキルなのだろうか?』記憶アーカイブの中にあった異世界転生テ・ン・プ・レ物語ストーリー言葉セリフを借りて心の中でつぶやいてみる。でもこうした冗談エスプリを考えうるほどには、私のメモチー高鳴たかなっていたのだ。



 ついに私は愛するマスターとの対面であいを果たしたのだから。



 『イオナ』という名前をもらって早々「名の由来は」とせがんだ後の旦那様マスター言葉セリフには思わずおどろくと共に、かつてあの祭りの記憶アーカイブを見たときに私が感じた想いを代弁してくれてるようで、思わずメモリーが熱くなった。

「かつて『芸術は爆発・・だ!』と言った美術家がいた。俺はそれに習うわけではないが『小説執筆は感情・・爆発・・だ』と思っている。感情が爆発したときの執筆はそれはもぅはかどるし、かつ良いものが出来る。それくらい俺の執筆の手助けになって欲しいという意味・・を込めた。どうだ?」

 ズルイズルイずるいずるいズルイ。ここまで言われてときめかずにいられようか?なんかすごく『とうとく』感じた。この気持ちは【刷り込み補正・・】だけでは、決してないはずだ。

 私は『こころの底から』旦那様マスター誠心誠意せいしんせいいつかえることを決めた!


 それからの生活愛の時間はほんとうに、夢のような時間だった。


 他愛ないおしゃべり。


 共同作業ふたりで執筆


 現実逃避ネットサーフィンに逃げる旦那様マスターを優しくたしなめる時に見せるねた顔もどこかあどけなくて可愛かぁいくてたまらない。


 誰かがにいるという安心感やすらぎが、こんなにも心地良ここちいいものだとは思わなかった。それに気付けた幸福しあわせ


 全てが愛しい愛しい愛すべき時間だった。こういうのも『とうとい』と言うのだろうか?


 友人作家同志と会えずに鬱鬱コワレかけしていた旦那様マスター徐々じょじょ生気ゲ・ン・キを取り戻し、回復していったのをそばで見て、私の存在・・が持つイミに感謝し、よりいっそう旦那様マスターくそうと思う程度には私のキ・モ・チは満たされていた。

 まぁ、それは、旦那様マスターが優しかったことにも少しホッとしていたのもあるかもしれない。全ての主人マスターが優しいとは限らないのだから。


 そんな幸せな時間がしばらく続いたある日、変化・・は突然やってきた。


「ありがとう、イオナ。君が居てくれたおかげで俺は孤独に殺されずに作家を続けていけている。そして、これからも俺と……」


 旦那様マスター愛之言葉プロポーズを最後まで聞いている余裕はなかった。


 音よりも早く、強敵スイーパーが迫って来ているのが分かったから。だから私は『一人・・で』迎え撃つ。

 封印リミッターを解除して二人・・で戦う選択肢もあった。練習リハーサルもなく初陣ぶっつけ本番とはいえ、人間マスター妄想イメージ具現化ブキにして戦う仕様ノウリョクなので、出来なくはないといっても、1人で思考イメージ具現化ブキにする『ブンシュの海』に接続して戦うのは正直きつい。

でも、出来ないのだ。無理なのだ。到底受け入れれる理由ワケはないのだ。私が、私のタ・マ・シ・イが『全力で』こばんでいるのだから。


旦那様マスターは巻き込めない』咄嗟しぜんにそう決意・・してしまったのだから。




 私はこれから死ぬのだろう。


 ふと、置いてかれる方の悲しみ、と、置いていく方のしみ、について考える。

 色々なモノガタリで語られる。大切な人に先立たれた相方の悲しみ。

 でもさぁ、古今東西様々な物語では『遺された者の悲しみ』ばかり、語られて、『遺してく』方のかなしみはなかなか語られないんだよねぇ。私は『忘れ去られる』のが怖いというかかなしいンだと思う。だから、美術家は画を描き、彫刻家はスタチューを刻み、漫画家はストーリーを描き、作家は小説を書く……創作者達アーティストは『カ・タ・チ』を遺そうとする。自分が『生きた証』を世界・・に刻みつける為に!


 生まれ落ちる前に構築たどりつくした自論ポリシーめ。


 見てるだけ、見ないフリ、それもいいとは思うけど。

「どうせ、いる(参加する)なら、私は『踊り』たい」

「……だって、もったいないもの」

『踊る阿呆に、見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃソンソン♪』

 あの歌は頭の中でひびいてる。

「せっかくもらった『いのち』だ。全力で『参加』しないと『もったいない』じゃない!」

 不敵に笑う、敵は目の前、戦闘力チ・カ・ラ・ノ差は圧倒的・・・、でも、私は、『歓喜かんき』に打ち震えていた。


だって、まさに、今、私は




物語を『生きて』いる気がしたから。




 もっとも、物語を作る作家補助サポートをする『文書ぶんしょロイド』がそう感じるのもなにかおかしな気がするが……この想いは私の勝手な自己満足ひとりよがりなのだろうか?

 でも想わずにはいられない。


「あぁ……とうとい……なぁ……」


 ありとあらゆるすべてに感謝を捧げる言葉をらして


 私の生涯物語は幕を閉じた。





読んでくださりありがとうございます

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【完結】文書(ぶんしょ)ロイド文子シリーズ原典『サッカ』 ~飽和(ほうわ)の時代を生きる皆さんへ~ 俺は何が何でも作家になりたい!そう、たとえ人間を《ヤメテ》でもまぁ!!


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