掌編小説・『クロスカントリー』

夢美瑠瑠

掌編小説・『クロスカントリー』


(これは2019年2月25日の「クロスカントリーの日」にアメブロに投稿したものです)



          掌編小説・「クロスカントリー」



 おれは国境を不法に横断しようとする亡命者だ。

 ちなみに「亡命者」のことは英語で「EXILE」という。日本にはこの名前のバンドがあるらしい。

 祖国はいわゆる恐怖国家で、独裁者が君臨していて、国民の生活を四六時中監視している。

「1984」というSFがあったが、あれをはるかに凌駕するような超管理社会なのだ。

 割と小さい国なのだが、地下資源が豊富で裕福である。

 ハイテク企業をたくさん誘致して、ますます金持ちになったが、いかんせん独裁者というのがちょっと頭のおかしい被害妄想タイプで、国民の一斉蜂起とか革命運動とかを異常に怖がっている。

 で、ハイテク企業の技術力を援用して国民の一挙手一投足まで完全にリアルタイムに把握出来るような監理ネットワークシステムを構築して、偏執狂的なまでに精細な超管理国家が出来上がった。

 寧ろ一種の不思議な21世紀のミステリー?みたいに世界中で注目されて、観光客もひっきりなしなのだが、そういう国柄ゆえの厳密な出入国管理とか言うのも、SFの世界のようでアトラクションのような面白さがあるらしい。


 いっそもうそういう面白さを生かして国全体をテーマパークにしてもいいかと思うが、国境を接してさらに強大な独裁国家があるので、精鋭な軍隊を擁する軍事国家という側面も維持しなくてはならないのだ。

 おれはしかしそういう管理国家とかいうものに四六時中監視されている境遇というのが、心底嫌な性格で、息が詰まって、死にたくなるのだ。


 で、亡命を決意した。

 グーグルアースと、自分で開発したアプリを駆使して、国境の抜け道を探ってみると、わずかに40センチだけ、監視網をかいくぐれる地点が一つだけ見つかった。


 さまざまな困難を経たのちに、おれはその抜け道にたどり着いた。

 慎重に体をくぐらせる。1ミリでも赤外線に触れたらたちまちレーザー光線に切り裂かれるのだろう。

 この身の躱し方も事前に何度もシミュレーションしておいたのだ。

 そうしておれは亡命に成功した。

 隣国は素朴な仏教国の農業国で、人心も穏やかで、国王も役職も交代制である。

 貨幣もなくて、物々交換の国である。

 桃の花が咲いていて、まさにおれにとっては桃源郷なのだ。


おれはこの国に骨を埋めるつもりである・・・


(たまには”オチがない話”というのを作ってみました:作者傍白)

<終>

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掌編小説・『クロスカントリー』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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