私の尊い推し

水谷一志

第1話 私の尊い推し

 私には、それはそれは尊い推しがいる。

私はその推しを心から愛している。


 ところでみなさん、「尊い」「推し」の意味がお分かりだろうか?

これは一般的な日本語の用法とは違う……らしい。

「尊い」は最上級の「大切な」の意味、「推し」は「一番応援しているメンバー」程度の意味だろうか。

 とにかくこの日本語の使い方は若者だけらしい。


 というわけで、今から私の尊い推しの素晴らしさについて語らせて欲しい。

まず、背が高い!背が高いのはなんと言っても魅力的。

あと、この道○○年の大ベテラン!これは人それぞれ意見が分かれる所だろうが、ってか若い方がいいと言う人もいるだろうが私はその経験の豊富さにも惹かれている。

あと……、髪型がああ見えてチャーミング!これも意見が分かれるだろう。でも私はそう思う。


 そんな尊い推しと私が出会ったのは、たまたま私たち家族が遠出をしていた時。

関東近郊に住んでいる私はその日初めて関西に行く。そこで……、偶然出会ってしまった。

 もちろん私はその推しのことを前から知っていたが、本物に出会ってしまうと違う。

そこから私は、その尊い推しの虜になってしまった。


 そこから私はSNSを駆使する。

まず尊い推しのコミュニティ。これは人が多いのか少ないのか分からない……がどちらかと言うと多い方!?

 ただ私のクラスには私の推しの賛同者はいなかった。なぜ?もっと尊い推しの魅力を広めないと!

 ただ当然ではあるがSNSのコミュニティには私の推しを同じように推してくれる人がたくさんいる。

 中には関西在住の人もいて、「簡単に会いに行ける」と言っている人も!

私はそれにちょっとジェラシーを感じてしまう。……まあジェラシーを感じても仕方ないのだが。


 あとは人それぞれの推しポイントの違いも面白い。

これは、プロデューサー的存在にあたるのか?設立者のことに詳しい人がいたり。

 私は推し一直線で、ちなみに他の類似のものには興味がないのでその辺のことには詳しくない。

 ただとてもマニアックな人がいることだけは確かだ。

そんな人の話を聞くと……、何だか理解者が増えたような気がして嬉しくなる。


 あとは関東に推しのライバルがいるらしいという情報。

私は関東近郊に住んでいるが今までそれは知らなかった!

 そしてそのライバルの写真を見てみると……、いやゼッタイ私の尊い推しの方が上!

絶対関東には負けたくない!私はエセ関西人!

 もちろんエセ関西人は冗談だが私は私の尊い推しへの愛情を深めた。


 ところで私は母に聖地巡礼の話をする。

この「聖地巡礼」というのは推しゆかりの場所とか、あとアニメで有名になったシーンの場所とかを巡る旅行のようなもののことだ。

そして……、私は母におねだりをする。


「ママ、私また関西に、今度は一人で行きたい!」

「急になんで?」


 ここで私は尊い推しについて話す。


「私、もう一度【奈良】に行って【奈良の大仏】が見たいんだ。それが今の私の【尊い推し】だから!」

「そんなの【鎌倉】でいいんじゃない?」

「ゼッタイダメ!鎌倉には負けたくない!」

「……分かりました。お金はいくらか補助します。でも気をつけてね」

「やったあありがとう!」

「でも一言だけ言っていい?【「尊い」っていう言葉の使い方、本来の意味で合ってるわよ】」


(終)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の尊い推し 水谷一志 @baker_km

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ