第45話 奴隷を買う

「カレン、ミレーに聞きたいのだが、クラスメイトたちの世話、特に食事を準備してくれるような従業員はどこで募集したら良いの?」


「私がお父様にお願いいたしましょうか?」


「それはさすがに申し訳ない。」


「一般的にはギルドに頼んで従業員募集の広告を掲示板に貼ってもらうだな。その他には奴隷を買うというのもある。」


「奴隷はちょっと抵抗があるんだよな。俺たちの暮らしていた世界には無かったんだ。昔はあったらしいけど。」


「私も元は奴隷だ。奴隷を買うことに抵抗があるのだろうが、奴隷にとっては良い主人に買ってもらえることは幸せなことなのだぞ。奴隷になる切っ掛けは口減らしや借金などの貧困によるものが大多数だ。それに奴隷商での扱いは良くない。生きていくために必要となる最低限の食事しか与えられない。1日、固いパン1個と水だけなんて当たり前だ。店主の機嫌が悪いときはそれすら無い。だから買った後に人並の暮らしを与えてあげれば良いと思うぞ。」


「そうか。助け出してあげると思えば良いのだな。」


「そうだ。それに私はまだ戦闘奴隷だったから良い。もっと扱いの悪い奴隷もいる。特に欠損のある奴隷は人として扱われていないことが多い。出来ればそのような子を助けてあげてほしい。誠司や春菜であれば治せるだろ?」


「わかった。じゃあ、今日は奴隷商に従業員を探しに行くとするよ。」


「私が居たところとは違うが同じようなシステムだろう。商人に騙されないように私が着いて行くぞ。」


カレンとこの町の奴隷商へ向かった。

裏通りの目立たない場所に店があった。

カレンが先を歩き、入り口にいた若い店員に声をかけた。


「料理のできる奴隷がほしい。」


「わかった。見繕うから中で待ってくれ。」


店員に案内され応接室で待っていた。


「足元を見られるから誠司は堂々としていてくれ。」


「わかった。」


10分ほどすると先ほどの店員が何人かの奴隷を連れてきた。

気付かれないように鑑定でステータスを確認する。

元食堂店員やコック、宿屋の従業員で一応料理スキルを持っていた。

決めかねているとカレンが動いた。


「他にはいないのか? レベルが低すぎるぞ。」


「申し訳ない。現状料理スキルを持っているのはこいつらだけなんだ。」


「そうか。では仕方ない。他の奴隷も見てみたいのだが案内してもらえるか? 私たちは冒険者だから良い仲間になれるやつが居たら買いたい。」


それから店員に案内されながら店内を見て回った。

一通り回ったが奴隷たちは食事をほとんど与えられていないようで覇気がなく、下を向いているものばかりだった。

見ていて辛くなった。

全員助けてあげたいが先立つものがそれほど無いので無理だ。


「これで一周した。気に入った者は居たか?」


「他には居ないのか? 欠損や病気持ちも居るなら見ておきたいのだが。」


「一応いるが客を連れていけるような場所ではないぞ? それでも良いのか?」


「構わん。戦闘の練習相手ぐらいにはなるだろう。」


カレンがギュッと手を握り締めていた。

言っていて辛かったのだろう。

そのぐらい言わないと案内してもらえないと考えたようだ。


地下へ潜り、真っ暗で腐敗臭のする廊下を進んで行くと牢屋のならんだ場所へ着いた。

中には息をしているのか分からないくらいに弱っているいろいろな部分の無い者たちが居た。

その中に寄り添う獣人の少女が目についた。

頭の上に耳があることしかわからない。

片方は片足が無く右目が潰れていた。

もう一人は両足と右手が無く、目も見えていないようだ。


「あの少女2人はいくらだ。」


少女たちはビクッとした。

その2人を守るようにヒューマンの30代ほどの女性が覆い被さった。


「ん? あの女性はなんだ?」


「いつも娘のように2人の世話をしている女だ。やつは呪いにかかっていて間もなく死ぬだろう。」


「そうか。じゃあ、まとめてあの3人をもらおう。いくらだ?」


「あの3人はもう売れるとは思えないから登録料の1金貨ずつで良い。引き取ってもらえるだけでこちらも助かる。」


「わかった。じゃあ、金貨3枚だ。手続きを頼む。」


「確かに。準備をするからさっきの応接室で待っていてくれ。」


先程、少女を庇った女性を鑑定し、彼女に料理スキル保有者であることは確認済みだ。

目的の人材が見つかって良かった。


*ステータス

 名前: スーザン

 称号: ヒューマン、奴隷、元宿屋女将、呪い(弱体化、老化)、余命2日

 職業: 料理人

 性別: 女

 年齢: 25歳

 レベル: 1


 スキル

  料理、家事


それと2人の獣人少女は、


*ステータス

 名前: ラン

 称号: 猫獣人、奴隷、身体欠損、余命10日

 職業: 村人

 性別: 女

 年齢: 12歳

 レベル: 1


*ステータス

 名前: リン

 称号: 犬獣人、奴隷、身体欠損、余命6日

 職業: 村人

 性別: 女

 年齢: 12歳

 レベル: 1


とにかく、3人とも危険な状態だった。

すぐに連れ帰って治療をしたいところだが、すでに30分程待たされている。

やっと店員が来たようだ。


「すまん。待たせたな。なかなかこの女が言うことを聞かなくてな。」


「この子たちは絶対に渡さない! 私の命を懸けて守る!」


「はああ。さっきからこの調子なんだ。あんたからも説得してくれ。」


「落ち着いてください、スーザンさん。私はこの子たちに危害を加えることは無いですよ。あなたを含めて2人も保護しますから。」


「あんたが私たちを買うという物好きかい? 何の役にも立たん私らを買ってどうするつもりだい? まさか魔法の試し打ちの的にでもする気かい?!」


「そんなことしませんから。とにかく我が家でお話しましょう。」


「そうしてくれ。登録するから身分証か冒険者カードはあるか?」


冒険者カードを渡した。


「ほう。その若さでCランクの冒険者かい。登録は完了だ。追加料金はかかるが奴隷紋や奴隷契約魔法は必要か?」


「いや、結構だ。じゃあ、手続きが済んだのなら連れて帰って良いか?」


「おう。次回は普通の奴隷も買ってくれよ。」


「考えておくわ。じゃあ、スーザンさん行きますよ。俺はこの子を運ぶからカレンはその子を頼む。」


3人にクリーンの魔法できれいにし、少女を抱きかかえて店を後にした。

そのまま真っ直ぐ街を出て寮に向かった。


「ここがあなたたちの職場になります。スーザンさんにはこの寮の管理者(寮母)になってもらいます。この子たちとともによろしくお願いします。」


「まだ名乗っていないのになぜ私の名前をという疑問がさっきからあったのだが、そこは置いといて。買ってもらって申し訳ないのだが、私の寿命はもう僅かしか残っていないんだ。この子たちだってこの身体では動くことすら難しい。最後に希望を持たせてくれて感謝している。」


「ああ、そのことですか。じゃあ、まずはスーザンさんから治してしまいましょうか。これから行うことは秘密にしてくださいね。」


「治す? 私には神官さんでも治せないレベルの呪いがかかっているんだ。気休めはよしてくれ。」


職業を聖人に変更。


「まあ、俺を信じてください。スペルブレイク!」


スーザンの身体が光りに包まれ、何か黒い煙のようなものが湧き出し、弾けて消えた。


「えっ? 何が起こったのだ?」


「呪いは解かれましたよ。これで働けますね。」


「・・・・。」


状況が把握できず唖然と立ち尽くすスーザンであった。


「スーザンさんは落ち着くまでそこで待っていてください。この子たちを治してしまいますから。リカバリー! エクストラヒール!」


少女たちの手足が再生し、目も身体のキズも癒されていく。

そして、彼女たちの安らかな寝顔と寝息に無事治療が完了したことを確認した。


「ふぅ。これで大丈夫だな。」


「あなたは神様ですか?」


復活したスーザンさんの態度が一変した。


「いやいや。神じゃないですよ。まあ召喚者です。だから多少皆さんよりは魔法やスキルが優れています。」


「召喚者? あっ! 勇者様ですか! 私たちを助けて頂き本当に感謝しております。助けて頂いたこの命、貴方様のために捧げます。」


呪いが解けて若返っているね。

でも、命を捧げるのは重いよ。


「えーと。さっきも言ったけど、3人にはこの寮の管理をお願いね。今はまだ誰も居ないけど、もうじき俺と一緒に召喚されたクラスメイトが来る予定だから。」


「畏まりましたご主人様。精一杯頑張ります。」


「ご主人様は止めてほしいかな。俺は君たちを奴隷として扱うつもりは無いよ。従業員として扱うからそのつもりでいてくれ。もちろん給料も払うからね。」


「命を助けて頂いて感謝しているのに給料までも。。。 私は一体どうやってこの恩をお返ししたら良いのでしょう。。。」


「普通に働いてくれたら良いから。」


スーザンさんがまだブツブツ言っているが気にしない。

スーザンさんはステータスから呪いの称号が消えていたし、若返っているから大丈夫だろう。

まだ目を覚まさない2人の少女が心配だ。


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