ジュン

第1話

「私、牛乳を毎日飲むの」

チエはそう言った。

「牛乳が好きなのかい?」

僕はそう尋ねた。

「骨を強くするためよ」

「まだ、20代なのに。もう骨粗鬆症の心配かい?」

「おばあちゃんが亡くなったの」

「そう」

僕は聞いた。

「骨粗鬆症で亡くなったの?」

「そうじゃないの」

僕は思った。「どういうことだろう」と。

「私ね、祖母の遺骨を見て思ったの」

彼女は話し始める。

「どんなにお金があっても、どんなに美しい容姿でも、骨には勝てないんだなって」

「…………」

「最後は燃えてしまって、骨だけが残るのよ」

「骨だけが残る……」

「そう。私自身が死んだ後、私の骨だけが生前の私を語れるの」

「…………」

「『これだけしっかりしたお骨なら、しっかりした人生を生きたのでしょう』って、骨が弁明してくれるの」

「…………」

「ねえ、知ってる?ダイヤモンドって燃えてしまうのよ。炭素だから。でも、骨は燃えない」

「ダイヤより骨は美しいんだね」

「気骨のあること言うのね!」

彼女は笑った。悲しみの印象を与えた笑みだった。

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ジュン @mizukubo

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