アレコレでピンキリ

其乃日暮ノ与太郎

千差万別な昨今

 「……れさぁ……」ワイワイ「……これゃ……」ガヤガヤ

(いいよなお前等は、至れり尽くせりで。今回だって結構苦労したんだぜ)


「それで?」

空のグラスに御酌をしてグレーのスーツでかしこまった佐野颯太の話を聞く。

「ウチの上司がさ、この前無事に終了したプロジェクトの打ち上げ飲み会でガキ使をオマージュした曲を作ったロックバンドについて気高く偉大だとか2時間も熱く語り続けたんだよ」

しかしそれは本人が半年付き合っていたシアー素材のボリューム袖ブラウスを着た元カノの松尾美羽に向けられていた。


ここは学級委員長だった俺が段取りした居酒屋の大広間を仕切りで区切った座敷で開催していた同窓会の席。


これを皮切りにして高校卒業から三年の月日が経ったゴールデンウイークに集まった皆と顔合わせする為に各テーブルを廻り始めた。


次の卓では白Tがパツパツな小島大輝が、

「陸の野郎、俺のお通し持って行きやがったんだぜ」

とバスケ部でもお調子者で通っていた大塚を指差して横に愚痴ってから焼き鳥をくわえ、それに眉をひそめた学生時代からまた長身が伸びたと思える久保蓮が

「あいつ、食い意地が張ってていやしい奴だな」

とあの頃からコーラを手放さない傍の左肩を叩き、それを喰らってしかめた新井駿の表情を見る事となる。


続いて顔を出した場では、売れないバンドマンとしか説明しようがない上野翼が、

「19世紀アメリカの合唱曲が原曲で自分達の時代では定番だった卒業式ソングの話になってさぁ、『わが師の恩って歌詞が出て来るんだけど、ソコをね、日本のおやつ[和菓子]の恩だと勘違いしてた』ってケラケラ笑う母親に引いた」

と相対する六大学と呼ばれる進学先に籍を置く杉山翔太に語り、太り過ぎて胡坐あぐらをかききれていなかった隣の野口大翔は愛想笑いでいなしていた。


その時に短い間で既に出来あがっていた松井拓海が立ち上がり、

「私たちの先祖が残してきた無形文化遺産に登録されている歌舞伎をこれからも大切に守っていくぅ」

と騒いで注目を浴びたが、同族支配によるコンツェルン型巨大独占企業集団の三大財閥と呼ばれる内の一つに族する家系の令嬢、安田美咲様の御登場によって視線の矛先がそちらに向いて広間がざわつく。


各所を巡り終え、自分の席に戻って座布団に座り暫くすると、タモ突板で浮造り仕上げのテーブルの向こう側で、

「私は舌っ足らずの巫女服バーチャルライバーが大切な存在すぎる。てぇてぇ♡」

と異常で強過ぎる愛着心を惜しげも無く披露する木下七海が推しのアイドルが可愛くてしょうがないと熱弁した野村楓に対抗心を燃やしていた。


一息が付け、やっと腰を据えて料理にありつけると箸を伸ばした瞬間に、悪いとは思ったが隣の千葉葵が眺めていたスマホを覗き見をする。

すると、度重なるいじめを苦にして自殺した小山彩花と並んで映る画面だった。

当時を振り返り室内に目を向けると、加害者側とされていた平野陽菜、渡部彩乃、菊地萌の姿はなかったが、小山に想いを寄せていた村田翔が千葉の向こうに座っていた事に今更ながら気付く。


そのついでに本日の参加者を数え、結局来たのは半分弱だったとビールを傾けた時に、生徒の殆どが見惚れていた美貌の持ち主で担任だった増田さくらが傍に寄って来て耳元に唇を近付け囁く。


「あの日の放課後の出来事は誰にも喋っていないわ」


この時俺は、立派で美しく近寄りがたかったかつての教師との思い出を隠し通した心意気に賞賛し、頬を赤らめた。

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アレコレでピンキリ 其乃日暮ノ与太郎 @sono-yota

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