猫の庭

秋山機竜

引っ越す前の話

 本日のKACは、猫の話題で、エッセイを書くことにしました。


 ちょろっと検索してもらえばわかると思いますけど、かなりの著者さんたちが猫ネタを使っていますね。そりゃそうですよ、猫は尊いですもん。


 まぁ犬も尊いとは思うんですが、そのネタはKACの初日でやってしまったので、猫でいきたいと思います。


 私は、引っ越しを経験しています。以前住んでいた家は、かなり古かったんですが、庭もあったんですよね。


 その庭はですね、野良猫たちのお遊戯場になっていました。


 柿の木は、爪とぎのために使われてしまって、皮が真っ白に剥げていました。


 草むらには、彼らの栄養源である昆虫がたくさんいますから、いつものように狩りをしていました。野良猫って肉食ですからね、たまにスズメも狩って食べていたんですよ。


 可愛い見た目で、おそろしいやつら。それが猫です。朝早くからドタバタと屋根で競争しやがりまして、そのせいで目が覚めることも何度かありました。


 でも怒れない。だってかわいいから。なんて腹の立つやつらだ。


 さて、そんな古い家もですね、東日本大震災の余波で、いよいよ崩れかけてしまいましてね。ちなみに私は千葉県民ですから、地震の直撃ではないんですが、首都圏は古い建物がダメージを受けたんですよ。


 そんなこともありまして、引っ越しすることになりました。


 家族全員で引っ越し準備をして、荷物を運び出しました。それで二日ぐらい経って、電気を止めるために立ち会いをしなければならなくなって、古い家に戻ったんですよ。


 そうしたら、うちの庭、野良猫に占領されていました。


 すごかった。十匹ぐらいいたんですよ。人間の気配が消えたから、彼らはチャンスだと思ったんでしょうね、我が物顔で居座っていました。


 ちなみに目線を上にあげたら、家の屋根にも五匹ぐらいいて、そいつら日向ぼっこしてました。


 合計で十五匹。ははぁーん、なるほど、こんなに猫がいたなら、毎朝追いかけっこするわなぁ。


 普通、野良猫って、人間が近づいたら逃げるじゃないですか。でもこいつら、俺が近づいても、そこまで警戒しないんですよ。さすがに急接近すれば、飛び散るでしょうけど、普通に玄関に近づくぐらいなら、微動だにしなかった。


 どうやらわかるらしいですね、ずっと長年顔もあわせずに、同じ敷地で暮らしていたやつが。


 ですが、そんな野良猫たちとも、お別れです。そもそもこの建物、大震災でダメージ受けたんですから、解体しないといけません。


 私が追い払わずとも、解体業者がやってきて、建物をぶっ壊してしまうわけです。


 無粋かもしれませんが、老朽化してダメージの入った建物を残しておくと、思わぬ事故が発生しますから、しょうがないんです。


 最後に挨拶でもしてやろうかと思いましたが、ファンタジーと違って、現実世界ですから、猫に言葉が通じるはずもなく。


 とりあえず手を振っておきました。


 でも悲しいことに、電気を止めるための業者がやってきたせいで、みんなどこかに隠れちゃったんです。


 それが野良猫たちとの最後の交流でした。


 さて、時間軸は現代です。あれから十年たちましたね。


 たまに古い家があった場所を通過することがあるんですが、そこは駐車場になっていまして、猫の姿なんてどこにもなかったです。


 まぁ、もし猫がいたとしても、彼らの子孫でしょう。野良猫の寿命だと、十年後に生きている確率は低いですから。


 しかし私は、いまでもあのあたりの道を通ると、つい野良猫を探してしまうんです。失ってからわかるものってあるじゃないですか。たとえあんまり顔をあわせない同居人だったとしても、なんだかんだ猫って尊かったんだなって。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫の庭 秋山機竜 @akiryu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ