尊い作品!?

夕日ゆうや

尊いってなにさ?

 見慣れない顔がひとつ。

 わたしと同じ目的だろうか。この高校の屋上には誰でも入れる。だからいてもおかしくはないのだが――時間帯が授業中なのだ。

「おじゃましちゃったかな?」

「ううん。でも、どうして?」

「授業を休んでいるのはお互い様でしょ。私は利香りか。あなたは?」

「わたしはかえで。利香はどうしてここに?」

「サボりたいから」

「それだけ?」

「それだけ」

 ふーんと呟き、わたしは隣のベンチに座る。

 何の気もなしに読書を始める。

「なに読んでいるのさ?」

「〝陽菜ひなの冒険譚〟だよ。主人公の陽菜が巡る冒険譚」

「冒険が好きなの?」

「そう! 冒険してみたい」

「ふーん。私もしてみたいかな」

「今度、冒険してみる?」

「いいね。どこまでいこうか?」

「まずは駅前、次は東京」

「いきなりハードルが高くなったね!」

「いいじゃない。夢を語るくらい」

「そうね。でも会って数分の相手に言う言葉じゃないよね」

 利香は眉根をひそめる。

「ふふ。でもあなたとは仲よくできそう」

「そんなものかしら……?」

「そんなものだ」

 楓が笑うと利香も微笑むのだった。


※※※


「どうだ? 尊いだろ?」

「え。この文章だけで、尊いと思えるのか?」

 俺はヒロインふたりの描写で〝尊い〟を表現したつもりだった。

 でも、彼は違う。

「おれには、他の作品を真似ようとして失敗したようにしか思えないんだが……」

「ひどい! これでも勉強して書いたんだぞ!」

「その勉強に何を題材にしたのか、聞こうか?」

「まじキャンと、あら汁とシマウマ」

「やっぱりパクリじゃないか。そんなんで尊いを表現できると思うなよ」

「女の子ふたりがいちゃいちゃしていれば〝尊い〟じゃないのかよ」

「それは偏見だな。男と女の恋愛でも尊いと感じさせるのがお前の力量だ」

「そ、そんな無茶な……」

「でなければアイドル系にしてみるか?」

「アイドルかー。確かにアイドルに尊いと感じる人は多いのかもしれないな……」


※※※


 舞台袖に引っ込んだ尊いふたりのアイドルがいる。

「わたしと一緒に尊いアイドルを目指そう!」

「……分かったわ。あなたになら尊いを分かってもらえそうね」

「そう。尊いアイドルを目指しているのよ」

「尊いね。お客さんがそう叫んでいるわ」

「アンコール! アルコール!」

「ほら。いくわよ。尊い楓」

「分かったわ。尊い利香」

 観客の前にでた尊いふたりは尊いまま舞台へ戻る。

「尊い! 尊い!」

 観客が尊さで盛り上がっている。

「尊ーい♪ とうと~い♪」

 尊い歌を歌い出すふたり。


※※※


「ばっかやろう!?」

「ひっ! な、なんだよ。これで尊い作品のできあがりだろ?」

「最初の方が百倍尊いわ! なんで余計なところで〝尊い〟が入ってくるのさ!」

「小説は言い切るのが一番だから、尊いをいれれば尊くなるだろ!」

「ばっかちげーよ! お前のは尊いを押しすぎていて、内容が入ってこないわ!?」

「なんでそんなに怒るんだよ。俺にも尊いを教えてくれよ……!?」

「お前には呆れたぞ……! そんなの感覚に決まっているだろ」

「……くっ。尊いは俺には書けねーよ」

「そうだな。今回のコンテストは諦めるんだな」

「悔しいがそれしかないよな……」

「ああ。おれはいつだってお前を応援しているぞ」

「ありがとう。俺も頑張るから、応援していてくれ」

 拳をぶつけ合い、友情を再確認する俺たちだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

尊い作品!? 夕日ゆうや @PT03wing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ