21回目の結婚記念日

カユウ

第1話

 結婚するまで知らなかったことの一つに、結婚記念日には名前がついているもの、ということがある。言われてみれば、テレビのバラエティー番組で50回目の結婚記念日を金婚式と言っていて、金の製品を贈っているシーンを見た気がしないでもない。だけど、それは半世紀も一緒にいてくれてありがとうっていう意味なんだと思っていた。結婚して役所からもらった様々な紙の中に、結婚記念日の回数ごとの名前が書かれた紙を見つけたときはビックリしたものだ。妻と一緒に見て、せっかくだからと結婚記念日の名前にちなんだ贈り物をしあっている。


 ただ、腑に落ちないことがある。それは、15回目までは1回ごとに名前があるのだが、その次は20回目に飛んでいる、ということだ。僕みたいなうっかりさんには、忘れてしまう危険が高い。いや、毎年結婚記念日には花を贈っているんだ。花はインターネットで空いている時間に事前予約しているから、贈りそこねたことはない。で、花に加えて、贈り物をしていた。それが毎年のことだったから、ちゃんと事前に贈る物を確認していたんだ。15回目までは。


 16回目になったとき、これといった決まった贈り物がなかったので、妻と相談して一緒に買いに行った。

 17回目も同じく、一緒に買いに行ったのだ。

 だが、18回目、19回目のときは花だけを贈った。子供のこととか、お互いの仕事のこととかでバタバタしてしまったので、タイミングを逃しているうちに次の結婚記念日がきてしまった。

 その結果、20回目の結婚記念日の贈り物を忘れたのだ。

 それに気づいたのは、1か月後に結婚記念日を控えた数日前。20回目は何を贈るのかを確認しようと、結婚記念日の一覧の紙を見たとき。15回目の横にメモした年からプラス5年したのは去年だ。何度見ても、メモした年は変わらない。結婚した年から指折り数えてみても、変わらない。20回目の結婚記念日は去年だったんだ。


「やっちまった……」


 その紙を持ったまま、崩れ落ちるようにソファに座る。

 妻は記念日を楽しみにしている人だ。子供だけでなく、自分たちの誕生日にもケーキを食べ、普段は買わないようなごちそうを買う。ウキウキした顔の妻を見ていると、こちらも楽しい気持ちになってくる。そんな妻が楽しみにしていたであろう20回目の結婚記念日が去年だった。その事実だけで、僕をへこませるには十分だ。


「あら、あなた。どうしたの?」


 へこんでいる僕に、妻が声をかけてきた。マグカップを片手に持った妻は、僕の隣に座る。僕は、正直に打ち明けることにした。


「実は、20回目の結婚記念日は去年だったんだ。忘れていてごめん」


「……えっと、え?どういうこと?去年の結婚記念日もちゃんと花を贈ってくれたじゃない」


 妻の反応に、僕は一瞬固まる。あれ、思っていた反応と違う。


「いや、20回目の結婚記念日も名前があって、贈り物をしあうんだって。それを忘れてたからさ」


 へこんでいた理由を説明するも、説明が終わる前に妻が笑い出した。


「あはは、そんなこと気にしてたの?変な人」


 妻が笑い出したことで、僕の気持ちは軽くなった。こんなことで浮き沈みするなんてな。

 ちなみに磁器婚式、もしくは陶器婚式といって、磁器や陶器を贈ることになっているらしい。結婚当初に買った夫婦茶碗もだいぶくたびれてきた気がするので、新しく購入することになった。

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