【KAC20217】いきなり空から女の子が!?

海星めりい

いきなり空から女の子が!?

「今日も良い天気だなー」


 雲一つない青空を見上げながら――俺、わたり界斗かいとはノビをした。


 こんな日は自転車にでも乗って、ちょっと遠くまで行くのも悪くないかもな。

 なんて、考えているとどこからか少女の声――それも叫ぶ声が聞こえてきた。


 だが、周囲に少女の姿はない。これはもしかして? と上を見上げてみれば、


「きゃああああああああああああああああ!?」


 空から少女が降ってきていた。

 親方!? 空から女の子が!? などと思いつつ、見なかったことにする。


 どう考えても厄介事だ。


 少女は俺の少し前に着地――お尻からいったし墜落の方が適切か?――した少女はお尻を擦りながら立ち上がる。


「いたたたたたた、耐衝撃魔導具が起動してこの痛み? これ不良品じゃないの!?」


 なんかよく分からない道具をバッグから取りだして文句を言っているが、俺には関係なさそうだ。


 少女の格好が魔女っぽいとか、バッグよりも大きいものを取りだしたのとか、俺は見てない、見てないぞ!


 とりあえず無視して横を通り過ぎようとしたのだが少女に肩を思いっきり掴まれる。


「ちょっとどうして無視するのよ! 美少女よ! 自分で言うのもどうかと思うけど美少女なのよ! 普通、美少女空からふってきたら、もう少しなんかあるでしょう!! 無視ってどういうことよ!」


「…………回目だ」


「何ですって?」


「お前で21回目だといったんだぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そう、俺は過去にも空から少女が降ってきたことがある。

 今、目の前に降ってきた少女を除けば計20回。


 しかもどいつもこいつも、何かしらの事情を抱えて助けを求めて来たのだ。コイツもそうならこれで21回目になる。


 どうなのかと聞いてみると、


「そ、そんなこと私に言われても、知らないわよ!? ま、まぁ、この私、リュージュ・アーネルテューレを助けて欲しいのは事実なのだけどね!」


「……面倒くせえ」


 いや、もうなんか帰ってくださいと言いたくなってきた。

 

 コイツなんなんだよ、と思っていると俺の言葉に反応したのか腰に手を当ててドヤッてきた。


「アナタが助けたのなんて、私よりも可愛くない子達ばっかでしょ! 私みたいな美少女を助けられるんだから役得よね! アナタ運が良いわよ!」


「ほう? なら、見せてやろう」


 そう言って、俺はスマホを取り出しリュージュに見せる。


「え、なにこれ?」


「いいから見ろ」


 次々に画像をスライドさせていく。映っているのは今まで助けた20人の美少女達だ。


 ホントよく助けたなぁ、俺。


「……すっごく可愛い子ばかりなんですけど」


「さて、少し前にお前が言ったことを覚えているか?」


「……わ、私の方が可愛いわね!」


「おい、声震えてんぞ」


 強がってんなぁ……別にリュージュが美少女じゃないとは思わんが、この20人全員に勝っていると豪語するのも厳しいだろう。方向は違えど美少女ばかりだからな。


 とはいえ、助けて欲しいと言いつつ、偉そうな態度にイラッときていたりする。


「じゃあ、可愛いリュージュさんは俺の助けなんかいりませんよね」


「お・ね・がいー!? だずげて欲しいの!」


「うわ!? 何してんだ!? 離れろ!?」


「づよい人の所にわざわざ座標を合わぜで来だのー! アナタなんでしょ! 助げでぇ!!」


 ガチで涙ながしてる!? というか、鼻水まで垂れてないか!? このままじゃ服につく!?


「ああ、もう分かった!? 事情は聞いてやるから離れろ!」


「え、ホント!」


「立ち直りはえーな、おい。さっきの涙なんだったんだよ」


「私、いつでも泣けるのよ! 特技なの!」


 なんだその特技……と思いつつもリュージュから事情を聞く。


 事情は思っていたより簡単だった。魔女見習いであるリュージュが旅をしていると、貴重な宝玉を手に入れたらしい。


 それで、そいつを狙って有名な野盗団に追われているってことだ。

 ただ逃げ回っているだけじゃいつか捕まる、と思ったリュージュは魔法世界から使い捨ての魔導具で転移――しかも、強そうな人の元へいくというおまけ付きで。


 ああー、魔法世界っていうと、確かこっちと異相がズレているだけで、同一の世界線なんだったか? そんなことを前に助けた少女から聞いたような……。


 などと、魔法世界のことを思い出しつつどうするか考える。


 とはいえ、今までの厄ネタに比べるとまだ分かりやすいな。ようはその野盗団をぶっ倒せばいいわけだ。


 問題は、


「俺が魔法世界を知らないってことだな。リュージュは戻れるのか?」


「う、ううん。使い捨ての転移魔導具は一個しか持ってなかったから……お師匠様が困ったら使えって渡してくれたの」


「となると、同じ方法は無理と。さっきリュージュが来たときの反応を観測していればどうにかなったんだが、いやまてよ? アイツなら観測しているかもしれないな」


 スマホを取りだして電話をかける。


『おう、ちょっと聞きたいことがあるんだが、さっき俺の近くで起きた次元反応について記録してないか?』


『久々に連絡が来たと思ったらいきなりそんな用事―?』


『わかった、また今度、普通に連絡するから今は急いでくれ』


『ほいほい……急がせるって事は、まーた新しい子引っ掛けてるんだね……ん? というか、今、カイくんの近く――後方に新しい次元反応が生まれそうだよ?』


『なんだと!? 一旦切る。そっちでも確認しておいてくれ!』


 スマホをしまって次元反応を探ってみると、確かに後方から次元反応を感じる。


 だが、まだすぐには出来ないようだ。これがリュージュを追っているヤツらのものなのかそれ以外なのかは現段階じゃ分からないから様子見するしかないな。


 軽く身構えつつ待機していると、リュージュが困惑した感じで問いかけてきた。


「……今の誰?」


「ん? 12番目の女。転移とかの次元反応のエキスパートだな」


「……言い方やらしくない?」


「お前には名前言っても分かんないだろ?」


 などと会話している間にゲートが開かれようとしているのだが、術式? 方式? を見て俺は思わず頭を抱えた。


「あーあー、そんな世界線が痛む方式で来るんじゃねえよ。一人、二人ならともかく、こんな大量に来ようとするなんて……」


 大きくなったゲートの先には剣だの槍だのを装備した男達がひしめき合っていた。


「見つけたぞ! 魔女見習い――な、なんだ!? なぜゲートが閉じ……」


「ちょっと見えたけどさっきのヤツらが野盗団でいいのか?」


 ゲートに手をかざして閉じつつ問いかける。


「え、うん。そうだけど……なんで閉じたの?」


「あー、そりゃあんな世界線にダメージを与えて、境界を揺らがせるゲートなんか危なっかしくて閉じるしかないだろ。とりあえず、次元反応逆探知して……座標、把握。ちょっと行ってくる」


「は!?」


 新しく俺がゲートを開いて、混乱するリュージュをよそに飛び込む。当然、その先はさっきの野盗達の元だ。


 これから行うことを見せる趣味はないし、一応閉じておく。

 いきなり現れた俺に野盗達は狼狽えていた。


「な、何者だ!?」


「ああ、そういうのいいから。リュージュのこと追わなくなるまでオハナシするだけだから」




 **********************




 野盗達とオハナシした後、俺は速攻リュージュの元へとゲートを開いて帰還した。


「終わった」


「はあ!? この短時間で何したの!?」


「ちょっと、オハナシしただけ」


 そうオハナシ物理だ。ついでに制約ギアスで魂ごと縛っておいたからこれでリュージュを追うのは不可能だろう。


 多少ぼかして説明するとリュージュも納得がいったのか素直に頷いてくれた。

 若干、引いているような気もしたが気のせいだろう。


「これで終わったな。魔法世界のゲートも開いといたぞ」


 あとはリュージュを元いた魔法世界に返して終わりだ。


「う、うん。ありがとう。なにかお礼でも……」


「いや、いい。お前で21回目だと言っただろう。こういうのには慣れてる」


「あ、そっか……そうだったわね。でも、やっぱりなにか……あ、こ、こっち来なさい!」


 お礼なんぞいらんと言っているのに、右往左往するリュージュは何か決意したような顔で俺を呼び寄せた。


「あ? いったい何を……」


「いいから!」


 リュージュは近寄った俺の胸ぐらを掴んで引っ張った。


 助けた俺に喧嘩でも売ろうってのか? と思っていると頬に生暖かい感触が一つ。

 おまけにふわっとリュージュの香りが鼻孔をくすぐる。


「お、お礼よ! じゃあね! 今度、来るときはキチンとしたゲートで来るからね!」


 俺から離れて言いたいことだけ矢継ぎ早に言うと、リュージュはゲートをくぐって元の世界へ帰って行った。


 消え去ったゲートを見つつ、最後にリュージュが触れた場所を触る。


「っち、頬にキスとか小学生じゃあるまいし……まぁ、短時間の報酬としては悪くなかったのか?」


 久々のストレートな感謝に少なからず照れているのか、多少顔が熱い気がする。


 というか、あいつまた来る気なのか? 世界線にダメージをあたえないなら、来ること自体は構わないがまた妙な問題を引き連れてこないだろうな。


 まぁ、そうなったらそうなったか。どうせ俺が解決するんだろうし。

 手で扇いで冷ましたせいか、顔の熱さもおさまったようだ。


「さぁて、そこそこ時間は経っちまったけどなにしようか……あ?」


 歩き出した俺の頭の上にいきなり影が現れる。

 それが何か理解した瞬間に俺は受け止めていた。


 またか? またなのか? いくら何でもはやくね?


 そんな俺の思考をよそに、腕にすっぽりと収まった少女から清流のような声が紡がれた。


「あの、いきなりで申し訳ありませんが、助けていただけませんか?」


「お前で22回目だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!」


 新しく降ってきた少女の顔を見ながら再び叫んだのだった。

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