序章:6 早朝の依頼

「出といて」

 言うと、お師匠は席の後ろにある窓を開けた。

 街を覆う霧は未だに濃いままだ。

「はい。探偵セディ」

 主人が受話器を取った。

 受付でなく、探偵に直通の電話は、馴染みの刑事からの依頼が常だ。我々にはまだ、そう呼べる存在は1人しかいないが。

「デニさんか」

 どうやら、その1人からのようだ。

「師匠?その師匠に出ろと言われたんだよ。出た以上引き受けるのも俺たちだな」

「わん」

「じゃあ、それで。情報は師匠の電算機キュレータによろしく」

 そう伝えて、主人は受話器を置いた。

「良かったですよね?」

「ええ。どうやら杞憂だったようね」

「何の事ですか?」

「ただのお節介よ」

 3つの目を開き、見つめてくるお師匠。

 全てが見え過ぎてしまうという、蒼く澄んだ目に、主人もわたしも未だにたじろいでしまう。

「あ。情報来たわよ・・・あら」

「どうしました?」

「あなたに譲らなきゃ良かったかも」

 ぼやくお師匠が示したのは、壁に体をめり込ませた男の壮絶な姿だった。

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