天使創造

 この世に生を受けて十九年――。

 俺は、理想の女の子なんて存在しないことに気付いた。


 ならば! 創ってやろう!

 俺の理想の『マイ・エンジェル』を!


 遺伝子工学の研究を昼夜問わず行ってきた俺に、生み出せない命はない!


 ごぽ……こぽ……。


 円柱型の容器に満たされた培養液の中には、遺伝子情報の詰まった核が浮いている。

 ここから、俺好みの女の子を創るのだ!


「ふふふ……もうすぐだ……」


 核を培養して約半年。

 小指の先ほどだったものが、今はすっかり女性の形を成している。

 普通の女性と違うのは、背中に真っ白な羽が付いていることだ。


「白が似合う天使のような女の子。……いい……。最高だ!」


 見た目もそうだが、性格も清廉せいれんで優しい聖女にプログラミングしてある!


 さぁ、いよいよ待ちに待った起動の瞬間……!

 俺の青春は、ここから始まるのだ!


「培養液排出、目覚めろ!」


 ごぼごぼごぼっ。


 勢いよく培養液が排出されるとともに、色とりどりのコードに繋がれた女の子がはっきり見えるようになる。


 あまり女性の裸を見たことがないから、なんだか照れ臭くなって目をそらす。

 まぁ、衣服とかはある程度用意した。細かな下着なんかは、後で買い物に連れて行けばいい。


 ウィィイィー……ン。


 ゆっくりと円筒形の容器が下降していく。

 連動して、女の子につながっていたコードが外れていった。


 彼女が、うっすらと瞳を開いた。

 透き通った青い瞳が、興味津々に俺を見つめている。

 ――自分で創っておいてなんだけど――めっちゃくちゃ可愛い!


 俺は、これから待っているであろう幸せラブラブライフに想いをせた。

 まずは、手をつないで、デートして……ドライブなんかもいいな……。


 そんな妄想に浸っていると、ゆっくりと女の子がこちらへ歩いてくる。

 初めて歩くせいか、なんかおぼつかない。


 大丈夫かなって、心配しながら見ていると――。


 ずるっ。


 濡れたまま歩いたせいだろう。床に足を滑らせて、転びそうになった!

 俺は慌てて抱き留めようとするけど。


 あんまり本より重いものなんて持ったことがなかったもんだから――。


「あ……れ?」


 ぐらっ。


 どさどさっ!


 バランスを崩して、女の子ごと仰向けに倒れてしまった!


「いてててて……」


 背中をしたたかに打って、思わずうめいた。

 それにしても、あの子は大丈夫か?


 ずしっ。


 なんか、腰のあたりに重みを感じるのだが……?

 おそるおそる目を開けてみる。

 すると……!


「……」


 あの子が、大きな瞳を潤ませながら、俺の腰のあたりに馬乗りになっていた!

 幸い胸は、長くてきれいな薄金の髪で隠れているから、なんとか平静を保っているのだが!?


「……ご主人様」


 女の子が声を発する。

 あ~、夜告鳥みたいにきれいな声だな~……じゃなくて!

 何でそんなに目を潤ませているんだ!?


「ようやくご主人様に触れることができます……」


 真っ白な手が俺の顔へと伸び、頬に触れる。

 にこり、とほほ笑むと、いきなりキスをしてきた!


「●×△□!?」


 お、俺のファーストキスが、いきなり奪われただと……!?

 お、おかしい!

 こんないきなり男を襲うように設定していないはずだ!

 白衣のポケットの中に入っていた、小型コンピューターを取り出す!


 確かに俺は、清廉で優しい聖女に設定した!

 なんだ、何がおかしい!?


 急ぎキーを叩き、原因を究明する!


 そして!

 原因を突き止めた!


『性格:清廉・優しい・穏やか・純真な女』


 ――あ。

 字、間違えてたわ。


「私、培養液の中で、ずっとを夢見ておりました……♡」


 するり、と彼女の手が衣服の隙間から入る。

 そこからは――あっという間の出来事だった。


「あーーーーれーーーー!?」


 かくして、天使を創造した俺と、彼女の性活……もとい、生活が始まるのであった。


【終】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編集 さなゆき @sanayuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ