第2話 だれかこいつを止めてくれ

それから約数週間後のことであった。


『SNSで好評を博した”アンニュイ・イチゴプリン”、日本全国で大ブーム!!』


やっべぇニュースを耳にした。

口に含んでいたコーヒーが、買ったばかりの白いカウチソファーの上にとび散った。

しかし、今はソファーなんて気にしている場合じゃない。 

記憶の彼方に追いやっていたトラウマが、笹食ってる場合じゃねぇと飛び起きたからだ。


使命感にかられた私は、

寝室にてのん気に寝息を立てているトモを叩き起こしに行った。

そして叫んだ。ぺったんこの胸倉をつかんで。

なにしてるんだと。なにをしでかしてくれているんだと。


しかしトモはわたしの剣幕もなんのその。目を輝かせて「すごいでしょ!!」と言い放った。

いやわたしは褒めてるんじゃなくて叱ってるんだけど!?


「すごいけど今すぐやめなさい!?」


「え、だってもうバイヤーと取引契約して流通ライン乗ってるし……」


「なにしてるの本当に!?あんな取り扱い危険物、売っちゃダメでしょ!!」


なにせ一口食べてあの威力!一日中使い物にならなかったんだからねあの後!

嫌だ。あんなのが市場に出回るとか考えただけでも恐ろしい。

 

「だってお金になるし~!

 そうしたらハナちゃんにも楽させてあげられるよ!!

 いつもお世話してもらってるから、恩返ししたかったんだ!」


それは嬉しいが本気でやめろ。あんなのが流行ったら普通に考えてヤバいでしょうが。

とくとくと言い聞かせるも、目の前の鳥の巣頭には微量のダメージも入らない。


 「ちなみに会社も、もうおこしちゃいました!

  これで私も億万長者!!研究し放題!!やったー!!

  これから忙しくなるからね!ハナちゃん、引き続き試食お願いします~!!」

  

「こいつ……」


ああ、もう。どうしてくれよう。口からは嘆息しか零れてこない。

わたしは自慢の長い黒髪をグシャグシャにかき乱し、天を仰いで涙を流した。

神様仏様ご先祖様、日本で一番エライ人、だれでもいいからこいつを止めて。


そうして日本中に広まった”アンニュイ・イチゴプリン”は、

ドクタ トモの見込みを越えた人気となった。

つまり、今風に言い表すならバズった。


SNSを中心に発信された”アンニュイ・イチゴプリン”は、

どこのスーパー、コンビニでも大量に売り出され、そして驚異のスピードで即売り切れとなった。


余談だが、試食担当となったわたしの精神状態を顧みてか、

アンニュイ成分は試作品より若干マイルドになった模様。

しかし、毎日何個口にしてると思ってるんだ。意味がねぇ。


”アンニュイ・イチゴプリン”の勢いは留まるところを知らず、むしろ日に日に増していった。

なにせ街に繰り出せばあちらこちらで

「”アンニュイ・イチゴプリン”は売ってますか?」という声が聞こえてくるほどだ。


あれよあれよという間に商品宣伝CMも作られ、

CMには今をときめく売れっ子アイドルが起用された。


「味はまろやか、気分はアンニュイ!

 物憂げカワイイ午後のお供に”アンニュイ・イチゴプリン”!」


これが更なる爆発に火をつけた。


食後のデザートに、学校や会社の帰りに、がんばった自分へのご褒美に、

”アンニュイ・イチゴプリン”を買う人も出てきた。

流行りに乗せられた老若男女がこぞって”アンニュイ・イチゴプリン”を食すようになった。


グルメ雑誌やファッション雑誌にも取り上げられ、

『アンニュる』や『アン活』という流行語まで生まれた。


瞬く間に”アンニュイ・イチゴプリン専門店”なんて店も数多く作られ、

文房具や服飾メーカーともコラボするようになった。

ついでに転売ヤーやパクリ商品まで出た。これには流石のトモも怒ってた。


流石にここまで流行ってしまうと、ヤツの才能を認めざるを得ないわけで。

すこしだけ贅沢を言うなら、これからは真面目に人の役に立つ発明品を開発してほしいなぁ。

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