アンニュイ・イチゴプリン

kirinboshi

第1話 こんなモン作るなドたわけ。

わたしは「カタリベ ハナ」どこにでもいるごくごくフツーのOL。

ある優雅な早朝。幼馴染かつ同居人のちゃらんぽらんリケジョ「ドクタ トモ」が、

なにを思ったのか変な発明品を生み出した。


……いや、いつものことなんだけど。


その名も”アンニュイ・イチゴプリン”。

一口食べるだけでアンニュイな気分になれるらしい。あほか。


朝食を作っていた手を止めて即事情聴取。

なんでこんなバカげた代物を作ったのかとふん縛って詰問すれば、


「SNSで流行ると思った。後悔はしてない」


とかなんとか瓶底メガネを輝かせてのたまいやがる。

徹夜明けにもかかわらずいい笑顔だなぁオイ。

思わずクッルクルの鳥の巣みたいな頭に拳骨落とした。


「いやこれ、ちゃんと人のためになる発明品なんだってば!!」


頭にできたデッカイたんこぶを押さえながら、トモは涙声で弁解をする。

うーん、瓶底メガネさえ着けてなかったら無駄にカワイイ顔してやがるからなぁコイツ。色素薄いし。

泣き顔に免じてちょっと許しそうになる。ムカつく。


「これのどこが?」と眉間に皺を寄せて聞けば、

今泣いた烏がもう笑ったかのような変わり身の早さで

「よくぞ聞いてくれました!」と自慢げに言い放った。


「最近はさ~アンニュイな気分になるのがブームなんだって!!

だからさ、気軽にアンニュイな気分になれるようにこのプリンを作ってみたんだよ!」


「最近の若者の考えることはよくわからないな」


ほらほらと見せられたスマホの画面と例のプリンを一瞥し、わたしはぞんざいに返事をする。

画面の中ではなるほどアンニュイな気持ちを吐露している多くの人がいた。

でもさぁ、それをブームと呼ぶのはちょっと違うんじゃない?失礼極まりないぞ。


「うう~!ハナちゃんノリ悪い~!!イマドキ女子なんだから

 ここは『うわ~!超映えそ~~!!』っていうところでしょぉ!?」


「っていうかあんまり興味がない。映える、とかもよくわかんないし」


すげなくあしらう。しっしっと追い払う仕草を伴いながら。

性懲りもなくベタベタとくっついてくるトモには、

このぐらいの塩対応が一番いいのだ。


しかし、徹夜明け&発明テンション激高状態のトモには、それが逆効果だったらしい。

「試食してみてよ!」と強引にスプーンを口の中に突っ込まれてしまった。


濃ゆくマイルドなイチゴ味のプリンが、味蕾の上でとろとろ溶けていく。

まろいミルクとイチゴのフレッシュさの調和がとれていて、意外と美味しい。

アレっ?なんだ、なにも起こらないじゃんって思った次の瞬間。


「…………おぅ」


にわかに押し寄せる圧倒的気だるさ。

地球の重力に抗うのも若干ツラミな精神的状態に陥った。



「どう?アンニュイな気分になった!?」


「なった……」


ため息にアンニュイを乗せながら、辛うじてそれだけを口にする。

おっふ、これはちょっときついぞ。これ作るの止めさせた方がいいんじゃないかぁ。

とかなんとかだるい頭で考えながらも、

アンニュイに侵された現状ではそんな気力すら沸き上がってこない。

壁にもたれてなんとかバランスを取ろうとするも、ズルズルと身体が崩れていく。


「やったー!!早速サクラを雇い入れてSNSで広めよっと!!

 私の発明品で、世間を席巻するぞ~~!!」


もろ手を上げて喜ぶトモ。その様は無邪気な小鳥のようで可愛らしくもある。

不穏な発言をする同居人を虚ろな目で見つめながら、わたしは床へとグズグズに溶解していった。


……今思うとわたしはこの時、ドクタ トモを本気で止めなくてはいけなかったんだよなぁ。

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