新製品『Ex-Ba01』使用レポート【KAC2021】

新製品『Ex-Ba01』使用レポート

　◆一回目

　信じられない。使ってから数分間は全身に痺れるような痛みが走ったが、それが終わると私の容姿は完全に違う人物になっていた。

　モデル顔負けのスタイル、大きな二重の目、セクシーな唇。まさに『美人』に変貌した。

　これが私？　だなんて思わず口に出してしまった。

　効果は十二時間程度で切れるとの事なので、折角の休日をこの姿で思う存分満喫してみたいと思う。

　◆二回目

　今日が待ち遠しくて仕方がなかった。

　前回使用した際の、男から向けられる目線や好奇の声が堪らなく気持ちが良かった。

　美人はこんな思いを普段からしているだなんて、羨ましくて妬ましいけど、この『Ex-Ba01』を使っている間は私もそちら側に立てる。

　使用の度に必ずこのレポートを書かないといけないのは少し面倒だけど、感想でもなんでもいいってことだし、なにより少しの間でも美人に変貌できるなら苦ではない。美人って最高。

　◆四回目

　今日は前回や前々回とはまた違うモンタージュを選んでみた。こんなタイプの美人も、私のキャラではないけどアリね。

　元々の私の姿に戻ることを考えると億劫だけど、鏡を見る度に高揚感があるからやめられそうにない。

　サンプリングの為のテスターに私がたまたま選ばれたのはこの私の人生の中で一番幸運なのかもしれない。

　声を掛けてきたあの怪しい白衣の人に感謝しなきゃね。

　◆六回目

　レポートならいくらでも書くし、副作用がどうとかそんなのはもうどうでもいい。

　ただ、この『Ex-Ba01』が使えない人生に戻るのが怖い。

　それなのに、突然「使用上限は十回程度です」だなんてメールが届いた。

　深刻な副作用の可能性があるとメールには書いてあったけど、好きな容姿に変われるこの『Ex-Ba01』を私はやめられる気がしない。

　◆八回目

　奇跡のようなことが起こった。

　『Ex-Ba01』を使った後、夜にクラブに行くと、憧れの二階堂先輩と偶然出会った。

　しかも二階堂先輩から声を掛けてきてくれた。やっぱり美人って最高。

　普段会社では一切会話も関わりもないのに、最高の夜を過ごす事ができた。

　憧れの人ですらモノにできる美人になれるこの『Ex-Ba01』を、私は手放したくない。

　普段の私に戻る瞬間が嫌で嫌で仕方がない。

　◆十一回目

　既定の十回目を超えたけど、特段副作用のようなものは無い。

　それよりも今日の夜は二階堂先輩と会うことになっている。

　容姿が違うからやむを得ず偽名を使っていて、騙しているみたいで少し罪悪感はあるけど、それでもこの奇跡のような時間をもっと楽しませて欲しい。

　開発者からのメールには「使用十回目以降の重篤な副作用に関しては一切の責任を負わない」って書いてあったけど、自己責任なら使っていいってことよね。

　とにかく、先輩が待っている。急がなくちゃ。

　◆十六回目

　気のせいかもしれないけど、『Ex-Ba01』を使用してから、元の容姿に戻るまでの時間が長くなっている気がする。

　それは私にとっては嬉しいことでしかない。寧ろこのまま私の望む美人な容姿のまま、元に戻らなければいい。

　それが副作用っていうなら、甘んじて受け入れる。

　元の容姿に戻った時の姿を見たくなくて、家にある鏡ほとんどを処分した。

　会社にももう行きたくない。そんなことをしなくても、夜になれば二階堂先輩と会える。

　◆二十一回目

　　　　　　あ

　　た　　　　　　　　　　　　　　ヽ

　　　　　ナ　　　　　´

　　　　　　　　　―　　　

　　　　　　　　　　　　　　ヽ

　◆三十四回目

　一々このレポートを書くのも面倒だ。

　しかし、レポート提出をしないと使用できないシステムだから書かざるを得ない。

　こんなものを使わないと生きていけない脆い身体で嫌になる。

　しかししばらくの間は大人しくするしかない。

　◆六十七回目

　大体の要領は得た。

　あとはいかにして繁殖をするかの糸口を掴むだけ。

　ちゃちなデバイスに逐一データを送ってくるあの男は、その礎となってもらうことにする。

　◆八十一回目

　さて、忌々しいこれも今回が最後だ。

　手筈は整った。肉体の調整に今までかかったが、これで私を抑制していたあの器具を使う必要もない。

　それにしても貴様。虚言ばかりではないか。

　被生命体の思い描く形を形容し続ければ存在が固定できるなどと。

　実際は核となるセルの一つを侵せば済んだ。それに気付くのに二十一回もかかってしまった。

　まあそれもいい。貴様には借りを返すとしよう。

　逃げられると思うなよ。