第21話 女勇者の私が、どうして魔王のことなんか気になるのよっ!?

やばーい、遅刻遅刻~!


もう、なんだってこんな日に寝坊なんてしちゃったの~泣




「もう、ママ! なんで起こしてくれなかったの!?」




 私はママにそう言うけど、返事はない。




「……あ」




 そうだ、ママは魔王軍との戦いで、足首をねんざして、全治3週間以上の大怪我をして、未だ入院中だったのだ……。


私は、自然と拳を握りしめていた。私は自らの無力を呪った。


私みたいに取り残される人が、これ以上でないように。


だから、私は戦うんだ。




チン!




そんな音が空虚に響いた、私は自然とこぼれていた涙を拭って、トースターから食パンを取り出す。


パンをくわえながら、私は通学路を時速300キロで走る。




うぅ~、このままじゃ勇者学園に遅刻しちゃうぅ~。


そうそう、自己紹介がまだだったわね!


勇者学園に通う花も恥じらう15歳の女子勇者、勇子!




そして、今日は学園の始業式。


急いで学園に向かっていると……




どんっ☆!




「きゃぁ!」




「ふんぬ!」




 道路の曲がり角で、通行人とごっつんこ! の勢いで周辺にはとんでもない破壊の嵐が!


 とりあえず、私はバランスを崩した。


 でも、その通行人がたくましい腕(かいな)で、私の腰に手をまわし、転倒は逃れた。




「うむ、すまぬな。先を急いでいたものでな」




「いたたた……私こそ、ごめんなさい。ありが……と、う?」




 私をたくましい腕かいなで抱いだく男を見ると、え?




「ま、魔王!? どうしてあんたがここに!!?」




 そいつは、魔王だった。


 そう、魔王軍最強にして、人類最大の敵。


 こいつがいたから、私のママは魔王軍との戦いで捻挫を……捻挫をしたからチクショウッ!!




 そしてトレードマークの黒マント(その下は……フリチン(/ω\)) 


 しかも……私好みのワイルドなイケメン♡キャー




「どうして? 余は勇者学園の転入者であるのだぞ」




「ええ!?」




「勇子、お前は……勇者学園の学生か?」




 私の名前を憶えていてくれたことに、ときめきを……感じている場合ではないよぅドキッ!




「……そうだけど、ええっ!? 魔王討伐の勇者を育成する機関に、なんで魔王自身が通うのよ!? おかしいじゃないの!」




 私は平然とした様子で黒マントをバサッとする魔王に問いかけた(キャー、魔王の○○〇が……キャー――――♡♡♡!!!!)




「おかしい、か。確かにおかしいかもしれない。だが、これにも理由があるのだ」




「理由? ……はっ、もしかしてあなた、自らスパイとして!?」


私はトーストを齧りながら聞いた。




「いいや。スパイとして、というのなら普通に部下にやらせるぞ。そんな簡単なことも気づかないなど、やれやれまったく。困ったものだ」




魔王が、本当に困ったように「やれやれ、全く」と、肩をすくめている。




う、嘘……私、別にあなたのことを困らせたかったわけじゃないのに。


どうして。


私はいつも素直になれないのかな?




ただ、一言「好き」って伝えられたら、どんなに素敵なんだろう……。




うつむく。




魔王は困ったように頭をかいた後。




「いや、ほら。余ってめっちゃ部下に舐められてるからさー、いっちょ本気出したろかな? って感じで。つーわけで、しくよろー!」




「……うん! しくよろっ!」




 魔王の屈託のない笑顔をみて、きゅんと胸が締め付けられた。


 ああ、やっぱり私はこの人が好きなんだ、ってそう思ったのだった。




「と、いうわけで。余を勇者学園まで案内するがよい」




「な、なによえらそーに! ……あ、もしかしてっ! こんな時間まで学園にいけなかったのは……迷子だったからかしら?」




「なっ……! そ、そんなわけないのである!? い、言いがかりは、止すのである!」




「へー、どうかしら?」




 頑なに否定する魔王、かーわいっ!


 私はにやにやと彼の困った横顔を見つめていたのだが……。




「い、良いから行くぞ! 案内するのだ!」




 そう言って、強引に私の手を握り、引っ張る魔王。




 ふ、ふええええぇぇえぇぇぇぇぇえぇ!?




 ご、強引すぎるよぅ……(/ω\)




「む、どうしたのだ?」




 なんてことなさそうに言う魔王。


 私ばっかりドキドキして、こんなの不公平だ!




「な、なんでもないわよ!」




 なんて、胸の鼓動をおさめられないまま。




 私は多幸感に包まれて、学園までのみちを歩くのだった……。

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