第9話 マルコ・ポーロ(1254年9月15日~1324年1月8日)

「う、嘘よ! そんなご立派なおチ●チンのフリチン魔王が魔王以外いるわけないわ!」




「フリチン魔王ではない、裸マント魔王だ!」




「ほらやっぱり、魔王じゃない!」




「はっ! しまった! まさかこの余が下らぬ誘導尋問に引っかかるとは……」




「おいおい、魔王がいるって?」




「お、ホントだ魔王ジャーン」




「うわ、マジでフリチン魔王じゃん。おら、あれやれよ、あれ」




「マントばさーってやってチン●コを見せつける奴」




「おまえあれ好きなんだろ? ほら、やれよ」




 私が魔王の名を叫んだからだろうか?


 酔っ払いの勇者たちが周囲にわらわらと集まってきていた。




 そして、勇者たちの「ちーん●!」「ちー●こ!」「●ーンコ!」「マ○コポーロ!」という【チ●コール】が始まった。




「ふむ、良いだろう。刮目して見よ!」




 バサッと、マントを翻してちん●を見せつけた魔王。




「おお!」




「やっぱでけー!」




「うへへへぇっ! こりゃたまんねぇぜ……」




 ギャラリーは沸いた。




「アンコール」「アンコール」「アンコール」




「「「アンコール!!!」」」




 そして、勇者たちの【●ンコール】の【アンコール】が始まる。


 魔王は困ったように鼻の頭を指先で掻きながら、




「オーディエンスの期待を裏切るわけには行かない。エンターテイナーたるこの余の辛い所だな」




 そう言った魔王。


 大仰な仕草でもう一度マントを翻してから……




「そうだ、余の爆乳魔法を見せてやろう!」




 そういった。




「ま、マジすか!? ちん●だけでなく、魔王の爆乳魔法まで見せてくれんの!?」




「っかー、サービス良すぎだろ、このチンモロ魔王!」




「チンモロ魔王ではない! 裸マント魔王だ!」




「でもよぅ、爆乳魔法見せてくれるってもよう……肝心なところはモザイクで隠すんだろ?」




 爆乳魔法ってモザイクで隠さなきゃいけないような、卑猥なものなの!?


 私は動揺する。


 まさか……そんなことないよね?




「……確かに、モザイクは必要となる。だがそれは、限界ぎりぎりまで狭めたいわば「ギリギリモザ」だ。すまんが、ギリギリモザで我慢してくれないだろうか」




「おいおい、まさかのギリギリモザだぜ……」




「っかー、そこまで営業努力する魔王はんには敵いませんわ!」




「ええでっせ、さ、爆乳魔法を見せてくれ!」




 魔王は嬉しそうに、「うん!」と、無邪気な笑顔を浮かべながら言った。


 私はその表情を見て……胸がきゅんと苦しくなった。




(う、嘘……!? 相手はあの魔王。みんなを殺した仇なのよ!? そんなのに胸がときめくなんて……そんなの絶対ありえないわ!!)




「ありがとう、みんな……いくぞっ!」




 そう言って黒マントを脱ぎ捨てた魔王。


 もちろん、彼はすっぽんぽんであった。




「きゃ! も、もうバカ!」




 とりあえず私は無表情のままそう言った。




「これが余の……爆乳魔法……爆乳魔法バースト・ボインだー!!」




 そう叫んだ魔王は、モザイクで隠された右乳首を勇者のジョンに、左乳首を勇者のジュンに押し付けた。


 ちなみにオチン●はモザイクで隠されてはいない。無修正だった。




 そして、乳首が爆発。


 魔王のチクビに貪りついていたジュンとジョンと、そして観戦していた私以外の勇者であるジョンとジョウとショウとシュンとジョンソンとジョンソンと暗黒微笑の貴公子が爆死した。




「……これが、太古の昔に人間を滅ぼしかけた魔人の王の力……っく。勇者わたしたちと、ここまでの力の差があったなんて……」




 私は、魔王の見せた力の片鱗に絶望した。




 こんなのって……こんなのって、ないよ!


 こんな強くてかっこいいなんて……もう、もう駄目。




 でもでも、しっかりしなさい、勇子!




 相手は人類に仇為す最強最悪の敵。


 好きになんて……なっちゃだめよ!




「ふむ。女。お主はどうやら生き残ったみたいだな。……気に入った」




 そう言って、私の顎を指先でクイッとする魔王。




 はわわわわわわ!




 流石魔王とでもいうべきか。


 こ、こんなワイルドな指クイ、惚れちゃうよう……。




「わ、私をどうするつもり……?」




「無論。……もう夜も遅い。とりあえずタクシーを停めておいた。早く家に帰るが良い」




 そう言って、あらかじめ停めさせていたタクシーを指さす。


 そして、私を後部座席に押し込むのだった。




「運転手さん。この娘よろしくです。あ、おつりは要りませんから」




 そう言って、運転手にハイブランドの財布から取り出した一万円札を握らせた。




「な、なによあんた。……これで、借りを作ったと私が思うとでも!?」




「酔った女に乱暴するのは、余の趣味ではないのでな」




「な……なによっ! かっこつけちゃって」




「ふん。……良い女の前で位、格好つけさせろ」




「……!!!」




 もう、ダメだった。


 私は、自分心を押さえつけることなんて、もうできなかった。




「勇子」




「ん?」




「私の名前、勇子! あんたの連絡先、聞かせなさいよ!」




 私、なにやってんだろ?


 相手は魔王なのに、こんな逆ナンみたいなこと……。




 でも、きっと。


 私は後悔しない。


 今彼の連絡先を聞かなきゃきっと、そっちの方が後悔するから。




 魔王は、私の言葉に面食らったように驚いた表情をした。




 そう、だよね。驚くのは当然だよね。


 私は、ドキドキしながら、彼の眼を見つめながら答えを待った。




 数秒の時間が、永遠の時間にも感じられるくらい。


 やがて。彼は口元に微笑みを湛えながら言葉を述べた。




「あっ、ごめーん。俺携帯持ってないんだわー」




 ……魔王は携帯を持っていないようだった。




「……はい、お客さーん。発車しますから、シートベルト閉めてくださいねー」




 発車するようだった。


 私はシートベルトを締めたのだった。


 そして、直ぐに車は発進するのだった。

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