第4話 イカれたメンバー

 そして、クロナの転移魔法で魔王城へと舞い戻った。

 

 良い感じの、『魔王城といえばこれだよね~』というような、ゴージャスな玉座の有る部屋に通されていた。


「うむ、では。余に現状を説明するが良い」


 玉座に座した俺は、なんかちょっとテンション上がっていた。


「は。それでは、不詳この私が説明をさせていただきます」


 クロナがそう言った。

 そして、彼女の説明を聞く。

 俺が思っていた通り、人間サイドと魔人サイドで争いが起こっているのだという。

 危機的状況になった際、この世を破滅へと導く魔王……である、俺の復活の儀式を行ったのだという。


「……つまり、この世を破滅へと導くために、余を蘇らせたというわけか?」


「ええと……できれば、人だけを滅ぼしていただきたいものですが」


「うむ、前向きに考えてみよう」


「さすが、魔王様ね」


「魔王様、すっげー」


 俺とクロナのやりとりに、2人のギャラリーが沸いた。


「ふむ。それでは、こちらから人間どもに挨拶に行かぬばならんな」


 俺は案外ノリノリで皆の衆に言ってやった。

 

「いえ、その必要はありません。あと半日もせぬうちに、勇者共がこの魔王城へと殺到します」


 俺は自分の耳を疑った。


「どういうことだ?」


「現在、我々は窮地に立たされています。東西南北の拠点の内、未だ墜ちていないのは西のウホイの拠点のみ。それ以外は既に人間の勇者の手により墜ちました」


「はい」


 俺は行儀よく「はい」と言ってやった。


「そして、西以外の拠点を突破した勢いそのままに、人間の勇者たち……その数およそ1万の勇者たちは、我らが居城であるこの魔王城へと向かいつつあります。恐らく、あと半日もしない内に……この魔王城は勇者たちに包囲されてしまいます」


「はい……。それは、真か?」


「真でございます」


 ……俺今めっちゃびっくりしてるからね?

 なんで転生直後でクライマックスなの?


 普通、もっとチュートリアル的なの有るでしょ?

 薬草取りのクエストとかさぁ~。


「とりあえず、薬草を取りに行くとするか……」


「魔王様っ!?」


 俺はいつの間にか呟いていたようだ。

 不安そうな表情をこちらに向ける三人娘。


「いや、なんでもない。では、この魔王城の設備はどうだ? 勇者共に血祭に……いや、ブラッドフェスティバルを開催させるに足る装置はあるのだろうか?」


「……それが。この魔王城は快適な居住空間を優先したため、そのような設備に乏しく。……あるのは、温水ウォシュレットくらい、でしょうか」


 温水ウォシュレットがある報告はいらないんだよなぁ……。

 俺はあまりにも貧弱な魔王城に驚きを隠せない。


「……では、魔王城の見取り図を見せるのだ。地の利を生かして戦おう」


「はい、これを」

 そう言って胸の谷間から一枚の紙を取り出した。

 俺は興奮しつつ、その人肌に温まった紙を受け取った。うひょひょ!


 ……俺の見間違いでは無ければ。

 これは城と言ったものではなく、ただの二階建ての一軒家なのだが?


「これ、あれだよね。魔王城ってより、魔王君の家、って感じじゃない?」


「魔王様!?」


 俺の素のツッコミに、取り乱すクロナ。


「よい、良いのだ。気にするでな……あれ? これもしかしてあれじゃね? 普通に考えてウホイのいた西の拠点のが防衛拠点としての機能高いんじゃね? どゆこと?」


「魔王様!?」


「いや、『魔王様!?』じゃなくてさ、そこはちゃんと説明してくんない?」


「あ、はい。……あまり広すぎても、掃除をする時が大変かな、と思いまして」


「いやいやいや! 『思いまして』じゃないよ!? 普通に考えて? なぜなぜどうして、そんなものぐさな独身男性が引っ越しの際にワンルームを選ぶような理由で魔王城の規模を決めちゃったの?」


「……後悔は、ありません」


「後悔して! そこは後悔して!?」


「魔王様!?」


「いや、このタイミングでそれはおかしいから。お前ホントはあれなの? ケンカ売ってんの? 『魔王様!?』って言っとけば、いい感じにスルーしてもらえると思ってんの? 世の中そんなに甘くないんだからね、勘違いしないでよねっ!」


 俺がツンデレっぽく上目づかいで言うと、ぽ、と頬を赤らめたクロナだったのである。


「うむ。まぁ、良いのだ。では、その勇者1万に相対する我軍勢は?」


「5、です」


 俺は絶句した。一万を相手にするのが五千て、少なすぎじゃね?


「5千、か……。一万に相対するには、心もとないな」


「お言葉ですが、魔王様。5千ではなく、5です」


「え?」


「一けたの5です」


 俺はびっくりした。


 びっくりしすぎてウンコが漏れたと思った。

 だが、更に驚いたことに、俺はウンコを漏らしていなかった。

 そのことが、俺の混乱した頭を冷静にさせた。


 クールになった頭脳で、即座に足し算を開始。

 俺一人と三姫臣が三人で、ええと……四人だ。

 で、だ。残りの一人は誰なの? 逆に謎なの。


「問おう。この場にいる我ら以外の者とは、何者だ?」


「は。もう一人はパイロットの加藤です」


「加藤っす」


 そして、なんかいつの間にかぬるっと現れたのは、サングラスをかけたアフロの日本人っぽいやつ。

 ……パイロットの加藤だった。


 ……パイロットの加藤だった、じゃねぇよクソったれぇぇぇぇえい!


「パイ、パイロットって、何? おっぱいの言い間違い? クロナ今、おっぱいって言いたかったんだよね? ね?」


「パイロットですよ、魔王様。おっぱいではありませんよ、全くもう。やれやれです」


「いや、分かってる。お前の頭がイマイチおかしいことも含め分かってる。だからそんな優しい目でこっちを見るでない」


 ふぅ、まったくやれやれ……本当にどうしよう、これ。

 俺は一つ大きく溜息を吐いてから、


「その、あれだ……余は問う。パイロットとは、なんだ?」


 かっこいい感じの問い掛けに切り替える。


 うまくいけばなんかいい感じに答えが聴けるはずだ!


「操縦士のことっす」


「何を操縦するのだ?」


「魔王城っす」


「イエース!」


 何故かテンションが上がるクロナ。


「……魔王城を操縦するの? お前魔王城のことなんだと思ってるの? あとクロナ、お前。イエース! じゃねえよ息の根止めてやろうか、クソが」


 と、そこで俺はもう一つ気が付いた。


「クロナよ。お主は先程ウホイに対して補充要因を送る、と申していたな。つまり、戦力に数えた5名以外にも、魔人の人員がいるという事か?」


 ウホイは今頃待っている。

 補充人員待っている。

 ウホウホ言いつつ、待っている……。


「いえ。補充人員とは、加藤のことででございます」


「だと思ったよチクショウ! じゃあ、何? 勇者の迎撃に回せる人員て、4人だけなの?」


「そこに気付くとは……やはり天才か」


「こいつ、絶対俺のこと馬鹿にしてるぜ……」


 俺が無職童貞のニートだったからか? だから馬鹿にされているのか?


「……うむ。よく分かったぞ。とりあえず、加藤は早くウホイの所へ送るが良い」


 俺はとりあえずいろいろ諦めてから、そう宣言した。


 その効果は絶大であった!

 パイロットの加藤はウホイさんとこに「さよならー」したのだった!!!!

 盛大な加藤の見送りを済ませてから、三人娘に向かって言う。

 

「ふむ多勢に無勢、ここに極まれりといったところか。……だが、面白い。余が策を授ける。見事、勇者共を打倒し、我らに勝利をもたらしてやろうではないか!」


 俺は、普段よりも幾分低めの声でキメてから、バサッとマントを翻した。

 決まった……!

 と思った瞬間、俺は失敗したことを自覚した。


 失敗、とは。今の俺はマントの下はフルチンである、時代が時代であれば、変質者スタイルなのだが。


 その俺が、マントをカッコよく翻したのであれば、必然。


 ……フルチンがコンニチ●コしていたのだった――!!!!!

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