第3話 分かり合えぬ魔王と勇者

 さて、どうしてくれようか、などと俺がしばし考えていたところ、三人娘とウホイも勇者一行に遅れて、跪いていた。

 なんでやねん。俺は声に出さず、全力のツッコみを心中で披露してい

「なんでやねん!?」

 思わず声に出しちゃった、テヘッ!


「ま、魔王様……?」


 戸惑ったようなクロナの呟きが聞こえた。

 ふぅ、やれやれ。困ったものだ。


「……楽にせよ」


 俺がカッコいい感じに呟くと、三人娘とウホイが顔を上げた。

 ドッと汗を拭きだす三人娘とウホイが、表情を強張らせ、その場で片膝を立て、頭を垂れた。


「……余は、お主らにまで跪けと命じた覚えはないぞ?」


「恐れ多いです、魔王様」


 どうやら、彼女たちは俺の強さを十分に理解しすぎてしまい、ビビっちゃったらしい。

 ……そんなつもりはなかったのだが、まずは勇者一行をどうにかしようか。


「【|余の名に従え(オーダー)】、ステータス・オープン!」


 俺の言葉に、ビュッ! と現れる勇者一行、ウホイ及び三姫臣のステータスウィンドウ。

 三人娘は二度目なのでやや驚くにとどまったが、ウホイと勇者一行は激しく驚いていた。

 

 ガチガチと震え、驚きのあまり声を出すことさえできない勇者一行+ウホイのステータスを確認してみる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Name ユーシャ レベル2

HP C+

STR E

MP D

AGI F

INT H

LUK E


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Name オンナー レベル5

HP C

STR C

MP S

AGI A

INT B

LUK A+


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Name ランサー レベル5

HP A

STR A

MP A

AGI A

INT A

LUK A


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


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Name ウホイ レベル5

HP A+

STR A+

MP A

AGI A

INT B

LUK A


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 無言のまま冷や汗だらだらの勇者君たちと、ついでにウホイのステータス確認を終えた俺。

 西の拠点を攻め落とすほどの、おそらく相当の使い手と思われる勇者一行(但し勇者は除く)ですら、レベルは5。


 つまりは……レベル6の三姫臣TUEEEEE!


 ということか。


 あと勇者弱っ……。


 そして、彼女らに恐怖を与える俺こそが、最もTUEEEEEE!!!わけだ。

 納得だ。


 あと勇者弱っ(笑)というわけだ。


 それにしても、アーチャーを名乗る斧使いのランサーくんか。

 こういう勘違い君、クラスに一人くらいいるよね。


 そう思い、俺は一言「ワッショイ」と呟いてから告げる。


「聞け、俗物共。貴様らはこれより国に戻り、魔王が復活したことを世に広く知らしめよ」


 俺の言葉を聞いた勇者の瞳には、力強い意志の光が、まだ宿っていた。


「……これが、古より甦れりし、太古に人の世を破滅に導いたと言われる[魔王]か。……なんて力だよ、畜生っ! ……だが、貴様の言う事なんか、聞くもんかっ!」


「ふん、口では強がっていても、無駄だ。余の力の強大さを、お主らは嫌でも周囲の者に伝えることになる」


 ぶっちゃけ、さっきの俺の発言には、勇者たちに対して【最上位命令】を使っていたし、間違いなく戻ってから魔王復活を言って回ることになるだろう。


「再び会いまみえることを楽しみに待っているぞ、いと弱き勇者たちよ。……【|余の命に従え(オーダー)】、失せよ」


 そう言うと、勇者たちはピシュン! とどこかへと消えてしまったのだった。



「流石は魔王様です。ただあの屑共に対して苦痛と恐怖と死を与えるのでは、芸がない。それよりも自らの復活を知らしめるため……より多くの人間に絶望を与えるために、奴らを逃がしたのですね」


「流石、魔王様ね」


「魔王様、すっげー!」


「貴方様が、我等魔族の王……。この身、貴方様に救われました。ありがたき幸せ」


 三人娘がうっとりとした表情で俺をほめそやし、ウホイが感涙していた。


 ふぅ、やれやれ。

 自らの手を汚したくないから退けただけなどと、真実を言うわけにはいかない雰囲気だ。


「よせ、よすのだお前たち。余は何も大したことはしていない」


「っは……そうでした。魔王様にとっては、このくらい造作もないこと。無駄に騒ぎ立ててしまい、申し訳ありません」


「良い、分かればよいのだ」


「……!! 我々のような愚か者をこうも容易く赦していただくその懐の広さ……っ!」


「さすが、魔王様ね」


「魔王様、すっげー」


「至上の喜びで候」


 三人娘とウホイが大喜びである。

 もう何なんだ、こいつら。

 俺はやや辟易しながらも、提案する。


「……余は、未だこの世界のことを知らぬ。故に、聞かせるが良い。何故余が、今この世に蘇ったのかを」


 そうだ。

 転生転移のテンプレがあるため、概ねのことは分かっている。


 大体、人間と魔族の間に争いがあり、大方人間側に強力な勇者が集いつつあり、じり貧になった魔神側が、藁にもすがる思いで魔王復活の儀式を行い、そして俺が魔王として召喚された、ということだろう。

 多分そんな感じ。


 しかし、この世界固有のことはわからない。

 あと、転生転移のテンプレがどの程度反映されているかは、早い段階で確認がしたい。


 つまりは、現状確認がしたいのだ。


「そうですね、魔王様。それでは、一度魔王城に戻り、現状の報告をさせていただきます。ウホイ、後程この居城に補充人員を寄こします。……あなたは、死者を弔ってあげなさい」


「はっ……お心遣い、感謝いたします」


 クロナの言葉に、ウホイが感激していた。


 俺は、彼女の言葉を聞いて、周囲を見渡した。

 至るとこにバラバラになった、原型を全くとどめていない数多くの魔人の死体。


 俺は……何故だろう。

 こんな凄惨な状況を見ても、動揺することが無かった。


 おそらく、だが。

 魔王となったことで精神的にも人間だった時よりもタフになっているのだろう。

 テンプレ的に、間違いがない。


 だが、それでも。

 大事な何かを、大切な誰かを護るために命を落とした戦士たちのために、祈りを捧げたいと思った。


「……ウホイよ。余は、またここに戻る。その時は、墓前に花でも供えさせてくれ」


 俺の言葉に、周囲が驚いたような反応をする。


 「なんと……もったいなきお言葉。命を散らした同士も、きっと。喜びます」


 ウホイがウホウホ泣いていた。

 ウホウホウホと、泣いていた。

 俺たちはそれをBGMに――いや。


 バックグラウンドミュージックにして、魔王城へと戻るのだった。

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