21回目のプロポーズ

常陸乃ひかる

愛は酷薄

 某会場。ひとりの男が壇上に立ち、

「さあ、世のモテない男性諸君! キミたちに告ぐ! 僕は物心ついた時から、様々な人にプロポーズ――つまり愛の告白をされてきた! しかも数にして20回だ!」

 そこに集まった、恋人が居ない男性たちの前で、己の恋愛体験をひけらかした。すると当然、大ブーイングが行ったり来たりして、たちまち会場が音韻で揺れた。

「……けれど僕の話を聞いて、多少なりと希望を持ってほしい! キミたちは少しでも、自分は幸せなのだ――と感じてほしいんだ! 今から僕は、告白されたことがないキミたちの方が幸せだと、言葉の上で証明してみせるよ! ではまず、僕が告白された人数を見てくれ!」

 壇上の男は数々の怒号に怯みながらも、右手のリモコンを操作した。すると、背を向けていたプロジェクターが明るくなり、プレゼンテーションの画面が映し出され、場内のざわざわが徐々に治まっていった。


・内訳

 小学校時代――6人 一年ごとにプロポーズされた

 中学校時代――5人 子供と大人の境目 色んな奴が居る

 高校時代―――5人 思春期 体の関係を迫られたこともあった

 現在―――――4人 大学三年時点での数

 合計――20人


「そして先日、21人目から手紙を手渡された! このデジタルの時代に、アナクロなラブレターをいただいたのだ! こちらが、その内容だ!」



拝啓

 輝く緑が眩しい季節になってまいりました。いかがお過ごしでしょうか。

 さて、突然のお手紙に、さぞ驚かれていることでしょう。それとも、無礼な者だとご立腹されているでしょうか。けれども、喉に引っかかった魚の骨のように、この胸のつかえがどうにも治まりません。貴方の一挙手一投足を見ていると、心がうずいてしまい、筆を執った次第でございます。

 ご無礼を承知で、私とお付き合いしていただきたいと思い、お手紙を差し上げました。私、お返事をいただけるまで待っております。

 では、体調にお気をつけて、ご無理をなさらないよう勉学に励んでくださいませ。

                                  かしこ

 2021年 3月23日

                               綾小路 岩男



 壇上の男が、先日もらったラブレターをプロジェクターで晒した途端、場内にざわつきが戻ってきた。おそらく、皆が気になっている部分は最後の行だろう。

「僕にラブレターをくれた人の名前が気になるのか? 21人目の愛の告白者の名前が気になるんだな? そうだな……」

 壇上の男は、天井の明かりを見つめながら一拍置いた。

「そうそう。余談だけど、小学校の時、僕に告白をしてきた子の名前は優紀ゆうき飛鳥あすか雅美まさみ伊織いおり千秋ちあきつかさだったよ」

 ――わずかな呼気。

「続いて中学時代……ひかる千春ちはる鳥海なるみ、ひろみ、しのぶから過激なアタックを受けたけれど、恋愛対象ではないとハッキリ伝えた。思春期に受けたプロポーズは、どれを取ってもブラック無糖より苦い思い出だったんだ」

 きっと世の非モテ男性陣は、『愛の告白』という行為を美化し、いつか自分に訪れてほしいとこいねがっているに違いない。だからこそ、壇上の男の体験を聞き、場内の男たちが次々と黙り始めたのだ。

「そして高校時代……ハッキリと断言しておくぞ!  僕が通っていたのは――」

 壇上の男は一拍置いて、落としどころを見せつけんばかりに、

「男子校だ!」

 と、大音声を放った。

 会場の壁を跳ね返ってきた自分の声に、一瞬ばかり心身が包まれ、余韻が露出された肌をなぞっていった。


「あぁ、そうさ! 今回――21回目のプロポーズも、過去と同じように男から受けたものなんだ! だから、ここに集まった非モテの男性諸君! 今まさに謳歌している『ひとり』の幸せを噛みしめるとともに、少しでも未来へ希望を持つと良い!」

 壇上の男は、狂ったように笑い、

「はぁ……もう、同性愛でも良い気がしてきた」

 最後に諦観のような一言を、ささやいた。

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21回目のプロポーズ 常陸乃ひかる @consan123

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