21回目の誕生日、横にいるのは……

かんた

第1話

「あーけーてー」


 丁度日を跨いだ時間になった時に、一人暮らしをしている俺、三浦修みうらしゅうの家のドアベルを鳴らす音とともに、聞き馴染んだ声が聞こえてきた。


 ドアを開くと、予想通りの相手がいた、幼馴染で大学までずっと一緒にいる渡辺美沙わたなべみさが大きな荷物を抱えて立っていた。


「こんな時間にいきなり来るなんてどうしたんだ? 何か用事があったか?」


 ドアに手をかけたままの姿勢で美沙に声を掛けると、美沙は疲れたような顔をして口を開いた。


「とりあえず、中に入れてよ。これ重いんだって」


「……まあ、分かった。とりあえず中で話は聞く」


 確かに重そうな荷物をしていたので、修はドアを一度大きく開いて美沙を部屋の中へと招き入れた。


「とりあえず、何を持ってきたんだ? 奥に運べばいいのか?」


「あ、ちょっと待って! 自分で運ぶから修はもたなくていいから!」


 重そうな荷物だったので代わりに運ぼうかとした修を、美沙は少し慌てた様子で止めると自分で運ぶと言い出した。

 一応は善意で運ぼうとしたが、本人から運ばなくていいと言われたので少し不思議に思いつつも玄関から部屋に先に戻ることにした。

 とはいえ、流石に重いものを運びながらでは危ないと思って廊下の危険そうなものを脇に避けてリビングへのドアを開いて美沙が来るのを待っていた。


 少しして、美沙がゆっくりと荷物を運びながらリビングまで入ってきた。

 荷物を床に置いて、一息ついてソファに座る美咲に冷蔵庫で冷えていた麦茶を渡しながら話しかけた。


「それで、何かあったか? こんな夜中に来るなんて、しかもいきなり」


「……もしかして、覚えてないの? 今日は修の誕生日でしょ?」


「……あ」


 美沙にそう言われてようやく修はちょうどついさっき自分が誕生日を迎えたことを気付いた。

 少し咎めるような顔をしてくる美沙に少し気まずい顔をしながら、咳ばらいをして修は口を開いた。


「あー、とりあえずありがとう。忘れてたけど、祝ってくれるのは嬉しいよ。てことは、そのデカい荷物はプレゼントだったり……?」


 とりあえず感謝の気持ちを伝えると、次は大きな荷物についての疑問を少しの期待を込めながら口にした。


「そうだよ、むしろ来た時点で分かって無かったことにびっくりしたけどね……」


「いや、誕生日は覚えてたけど、明日誕生日だなってぐらいでまさか日が変わった瞬間に来るとは思わないじゃん?」


「まあ、いきなり来たのは悪かったけど、どうせ明日は休日だし暇でしょ? それなら今からでもいいかな、って思って」


 そう言いながら美咲が持って来ていた大きな荷物を開くと、そこから大きな瓶を取り出した。


「お前……どれだけ飲むつもりだよ、まさか二人で一升瓶あけるつもりか?」


「大丈夫でしょ、私もお酒は強いし、修もお酒強いでしょ?」


 確かに、修はこれまで散々飲んでもつぶれるようなことにはなったことは無かったが、とはいえこの量を二人で空けたら、その後はかなり酒が回るだろうな、ということぐらいは簡単に予想が付いた。


 しかし、子の年にもなれば誕生日の祝いを盛大にしてくれるようなことはあまりないわけで、それも日が変わってすぐに祝いに来てくれたこと自体は嬉しく思っていたので、早速グラスを持ってくると瓶を開封したのだった。



「それじゃ、修の21歳の誕生日に、乾杯」


「乾杯……おお、この酒美味しいな」


「でしょ? お祝いのケーキも持って来てるから、一緒に食べよ」


「日本酒にケーキって……まあいいや、ありがと」


 それからしばらく、二人は部屋にあったおつまみや、美沙が持ってきたケーキなどを食べて、お酒を飲んで、気が付いた時にはもう深夜二時に差し掛かろうとしていた。


 それまで気にはなりつつも楽しく会話していたので聞けなかったのだが、ちょうど一度トイレへと行き、戻ってきたタイミングで修はあの大きな荷物は何なのか聞くことにした。


「ところで、あの大きな荷物は何だったんだ? 酒とか入ってたにしては、大きいと思うんだけど」


 修が美沙にそう聞くと、美沙は少し慌てた様子になった。


「あ、そうそう。渡そうと思って持ってきたんだった! ……別に忘れてたわけじゃないからね?」


「……なるほど」


「ちゃんとわかってる!? 忘れてはいなかったんだからね!?」


 おそらく忘れていたのだろう、酒が回ってきているのもあるのだろうが、少し顔を赤らめて美沙は荷物を開き始めた。


「とりあえず荷物を出していい?」


「いいよ」


「ありがと、とりあえずは私の着替えでしょ、それと他のお酒」


「泊っていくのかよ……」


「何よ、か弱い女の子をお酒入った状態で家に帰すって言うの?」


「別にダメって訳じゃないよ。だから顔を寄せるな」


 ……正直、俺は美沙が好きだ。

 だから、美沙が泊っていくというのは俺の精神衛生上あまりよろしくは無いが、それでも好きな相手の頼みを断れるわけは無く、酔っ払ってきて距離感が狂ってきている美沙を少し遠ざけた。


「それで、後は普通にプレゼントね。……えっと、あったあった」


 そう言って美沙が荷物から引っ張り出してきたのは、二つの手のひらサイズの箱だった。


「二つもあんの? 開けていい?」


「……いいよ? てか、修へのプレゼントなんだから、開けてもらわないと困るじゃん」


 そう言われて早速、と箱を開け始めた俺は、その時は美沙の様子に気が付いていなかった。


「これは……タイピンとネックレス? いいデザインしてるな」


「でしょ? これから先、きっと必要になると思ってタイピンと、ネックレスは修に似合いそうだなって思ったから選んでみた」


「へぇ! 確かにいいな、デザインも俺好みだし、流石は美沙だな!」


 修がそう褒めると、少し恥ずかしそうに自分の首元のネックレスをいじりながらはにかんでいた。


「早速つけてみていい?」


「え? まあ、いいよ?」


 何故か少し顔を赤くしている美沙を横目に、貰ったネックレスを早速首元に付けようとしたところで、


「やっぱり待って! 今はダメ!」


 美沙が飛びついてきてネックレスを取っていってしまった。


「ええ……何でダメなんだ? せっかくいい奴だし、早くつけたいんだけど……」


「えぇと……今は酔いも回ってきてるだろうし、お酒とか零しちゃったら汚れちゃうでしょ? 渡してすぐにそんな風になるのは見たくないって言うか……」


 少し動揺しながらも理由を話してくれた美沙に、修は少し残念な気持ちになりながらも言い分はその通りだと思えたので今は諦めることにした。


 とりあえずは、明日起きてからつけることにして、今は入っていた箱に大事にしまい込むと、汚さないように棚の上に置いておいた。





 それからしばらく、再び残っていたお酒を飲んで、お酒に強いとは言ってもそろそろ限界に近付いてきたところで、美沙の瞼が重そうになっているのに気が付いた。


「そろそろ寝るか。美沙は布団で寝てくれ」


「んー……」


「……動けるか?」


 声も出さずに首を横に振る美沙を見て、仕方ないと修は何とか美沙の肩を持つと、布団へと運んでいった。


 寝室まで何とかおぼつかない足取りで美沙を運んで、布団に寝かせようとしたところで、美沙は修にがっしりと抱き着いてきた。


「ちょっと、美沙!? 離して……って、もしかしてもう寝てる……?」


 慌てていて気が付かなかったが、よく観察してみるとすっかり寝息を立てていたので、起こさないように美沙をはがそうとしたが、いつの間にか足も絡まされていて、それもかなりの力でホールドされていたので、しばらく奮闘してはみたものの結局修も諦めてしまった。


(ずっと好きな美沙と密着した状態で果たして俺は理性を保っていられるのか……? てか、何であれだけ酒飲んでたのにいい匂いするんだよ……やっぱり好きだな……)


 修は緊張していたが、それでも時間も時間という事で、徐々に眠気に襲われてきて、いつの間にか眠ってしまったのだった。





 さて、修が眠りについてからしばらくまでの間、実は美沙は眠ってはいなかった。


(~~!! 何でそのまま寝ちゃうのよ!? 好きならそのまま押し倒してこればいいのに!)


 修の呟きももちろん聞いていて、それまでは修の気持ちをしっかりと分かってはいなかったので不安もあったが、気持ちを知った今は、恥ずかしさで正直顔から火が出る思いだった。

 それでも、何とか落ち着いて修の顔を覗き込んだ時には、修はそのまま眠ってしまっていた。


(お互いに好きってことは分かったんだし、起きてからはもう遠慮しないんだから……!)


 そんなことを考えながら、眠っている修の顔に自分の顔を近づけると、聞いていないとは思いながらも少し口を開いて、


「それでも、今これくらいはいいよね……?」


 そう呟くと、修の唇に自分の唇を重ねたのだった。

 また顔が熱くなってくるのを感じながら、再び修にしっかりと抱き着いて、強く脈打っている心臓を何とか宥めようと修に渡したものと同じデザインのネックレスを指でいじり、幸せを感じながら眠りに落ちていくのだった。

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