残機21の英雄がアレで地球を救う

ケーエス

みなさんエア〇スミスのアレをご準備ください

 20XX年。地球は結構ヤバいことになっていた。

 宇宙人が襲来し、地球は焼き付くされようとしているのだ!


 宇宙人を止めるためにはアレしかない!



 こちら地球防衛軍の管制室。

 今、地球をこの身に代えて救おうとする宇宙飛行士がロケットに乗っている。

 管制室にいる長官が彼に向けて励ましのエールを送っているのである!


「お前、絶対失敗すんなよ」

『わかってますよ』


 管制室に緊張がはしる。

 彼はアレにもう20回も失敗している。

 次、失敗したら彼は確実に……死ぬ。


『もし失敗したら自爆して奴らを攻撃しますよ。どうせ死ぬならそうありたい』

「そんなこと言うな! アレを成功させて生きて帰るんだ!」

『わかりました。ではまたお会いしましょう』



 いよいよテイクオフの時、エンジンがつく。ごうごうとすさまじい力がロケットに充填されていくのが俺にもわかる。


 長官、ごめん……。俺、やっぱり……。


 体が突き上げられる感じがした。窓の外を見る。ロケットが発射したのだ。みるみるうちに宇宙空間に達する。


 さて、ロケットは自動で敵の母船に向かうのだから何もする必要はない。

 ここはマニュアルを再読して、作戦の再確認をしよう。


 マニュアルを2周ぐらいしたところで敵に見つかった。

 事前に敵に知らせているため、ここはスムーズに母船に近づくことができる。

 降伏しにくると思わせてアレをする作戦なのだ。


 敵の母船の中にある発着場に降り立つと早速敵たちのお出迎えである。


 敵の宇宙人の姿は人に近いが遠いという感じである。

 俺を拘束するのは8本ある宇宙人の腕だし、俺を監視するのは、前を歩く宇宙人の後頭部にある目だし、言葉か雑音かよくわからない声を発して宇宙人は喋っているのだ。ただ、肌がとても綺麗である。


 やがて通路を歩き続けると、重そうな鋼鉄のドアが現れた。

 前を歩いていた宇宙人が鉛筆を削るような声を出した。

 するとドアが開いた。


 中へ入ると広い空間が広がっている。

 その中央にボスがいる。


 美しい女性の姿に似ている8本腕の宇宙人。4つの目玉、整った鼻筋、口からは牙が覗き、耳は裂けて居る、ただ肌がとても綺麗。


 不覚にもうっとりしてしまった。これではいけない。


 ボスが黒板を爪でひっかいたような声を出した。

 すかさず翻訳機を差し出し、ディスプレイに表示される文字を見る。

『今日はどういったご用件で?』

 意外と丁寧だ。21回目だというのに。今度こそ予定通りにいけそうか?

 まずは様子を伺ってみようかな……?

「えーと、朗らかな春の日差しが降り注ぐいい季節になりましたね」

 ボスは翻訳機を掲げて首をかしげる。ジェスチャーはなぜか地球人と同じなのだ。

『春とはなんでしょう?』

 しまった。向こうの星に四季の概念などないんだ。くそうだから四季のある地域のある地球に攻めてきてるんだろうが。馬鹿か俺、やっぱり俺ってやつは……。

 なんとかしないと……。


「えーと今日はそのお願いがありまして……」

 不安げにこちらを見つめるボスに俺はやっと接近した。5回目までは近づくこともできなかった。人類にしては小さな一歩だが、俺にしては大きな一歩である。


「あの、前々から言いたかったことなんですけどもそう、あなたになんというかなんでしょう。一緒にいるだけで楽しいというか、その……」

 ちらっと相手の顔を見る。不安感が増している。攻撃してくる感じは無い。

 何も言われてないのに相手に嫌われているように思える。

 10回目までは越えられなかったこの壁を今越える。

「これからもどうぞ仲良くしていきたいというか……」

 待てよ、お前、それだと15回目までと一緒じゃないか。このままではお友達に留まっちまう。お前はその先を行くんだよ!

「そのこうもっと親密なねえ……」

『結局なんなの?』

 はっ。時が止まった。相手は二つある眉間にしわを寄せている。

 まただ。20回目まではそうだった。ここで終わらしてしまった。ここではっきりしなければもう地球を救うこたぁできねえ! がんばれ、俺!

 ラストチャンス21回目! これですべてが決まるんだ!

「俺は……あなたが好きです! 付き合ってください!」

 辺りにどよめきが走る。言えた、とうとう言えた。これでOKがもらえれば地球を救うことができる。なぜならやつらは仲間の恋人がいる星は攻撃しないから――。

『ごめんなさい!』

 相手が頭を下げた。

『私、もう相手がいるの。だからそれは無理』

「そうですか……」

 ああ、相手がいたのか。まじかよ……。あえてボスに告白したらすぐにでも敵の攻撃を止めれる手はずだったが……。

 え? ということは自爆ルート? あ俺死なないといけないじゃん。このままじゃ童貞――。

『あとストレートに言い切れない男の人無理、てかまず21回も告白未遂しようとする時点で無理。1回目でも無理だったけど』

 は? 俺の今までの葛藤を踏みにじったなこの女!!




 大爆発が起こった。敵の母船からだ。

 作戦はどうやら失敗したようだ。

「【敵に告白してカップルになって攻撃やめさせる作戦】を遂行する上では彼は非モテすぎたんだ。非モテすぎたんだよ!!」

 長官はたくさんの職員兼愛人に囲まれながら管制室で泣きくずれた。





 非モテの英雄のお陰で地球には平和が戻り、女性がほんのちょっと非モテに優しくなった以外は元通りの日常になりましたとさ。めでたしめでたし?

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