拝啓、21回目の君達へ

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 私はしがない冒険家だ。

 他者が行かない様な未開の地を好き好んで歩き回ってはそこに在る未知のものを拾ってコレクションしたり、使ったり、見て楽しんだり、新たな発見をする。

 無意味にも思える行為だろう、が、私はそれが好きだ。

 今の世界には無い、在った物との…者との邂逅がそこには在る。

 先ず、この茶色い穴だらけの長い何か。

 とてつもなく大きい大きい大きい…紐?綱?それとも棒?に穴が沢山開いている。

 兎に角、同質の何かで構成されている……何か。

 中は空洞になり、同じ様な風景が規則的に広がっている。

 円形状のものが空洞上部から伸びている。

 ここ数日、穴だらけの綱と真っ直ぐな棒しか見ていない。

 歩いて歩いて、歩いても紐の先は見えない。

 所々でカラフルな丸が並んだ何かや、黒い直方体、巨大な生き物の骸も見た。

 考古学者なら何か分かるのだろうが、私はしがない我流の冒険家。

 それが何かは問題ではない。どう思うかが問題だ。

 例えば、この紋章の彫られたラウンドシールド。

 紋章の意味は解らないし、本当に盾かも分からない。

 でも、丈夫で、砕けない立派な盾である事は確かだ。

 今まで何度もクリーチャーに出会ってきたが、その度その度、この盾が攻撃を防いできた。

 そして、防いだ所を変幻自在の形状可変武器で倒す。

 形状可変武器……便宜上そう言っているが、武器かどうかはこれも分からない。

 ただ、ある程度柔らかく、この腕で形を変えられるのに、ある程度形を作れれば、それでクリーチャーを貫ける。

 本当は如何か知らないけど、少なくとも何度もこいつ等には助けられている。

 昨日も昼間にいきなり視界全部が真っ黒になった事があって、何処からともなく変な鳴き声が聞こえたから、辺り一帯を闇雲に殴っていたら真っ黒が消え去った。そんな事が在った。

 幾つも足の生えた二本角の竜を倒した事も在ったな………。

 あれは難敵だった。怖かった。狂暴だった……………。

 そんな事を考えながら紐の先を目指す。

 ………………こんな事を考える。

 あの二本角の竜を見た後でこの大きな綱を見ると、もしかしたらこの綱は竜の亡骸なのかもしれないと思えてしまう。

 身体の形は同じ。足は幾つも在る。長い。

 もしかしたら、あれが長年生きた成体で、この前私が倒したのは生まれたての幼体だったのかも……。

 こんな奴だったから、お陰で仲間とは袂を分かつ事になってしまった。

 こんな所に誰かが居る………って事は無いか。

 辺りを見回す。

 見えるのは太古の化石が眠っている大岩だけが幾つも転がる荒野。

 何の生き物かは分からない。ただ、茶色く変色した骨が幾つも岩に埋まっている。

 この光景も見飽きた。

 早く綱の先を見たい。

 誰かに会いたい。

 兎に角発見がしたい。



 辿り着いた綱の先。

 そこには太古の竜の顔が在った。

 大きな目玉が二つ。縦長の口が一つ。

 非常に平たい顔をしているが、大きな口と目玉が十二分に衝撃を与える。

 だが、一切動かない。

 死んでいる。

 過去に誰かが倒したのだろう証に、倒した誰かは、竜の額に大きく自分の名前をワザワザ書いていた。

 それがどんな名前かは読めないから解らない。

 が、こう書かれていた。模写だから、読めるかは分からない。

 『普通 大神永行』

 こう、書かれていた。

 竜の顔から死骸の中を冒険してみたが、目ぼしいものは大きな柔らかく薄い石板だけだった。

 そこには、こんな文字が刻まれていた。



 『これを読んでいる21回目のあなたへ

 これを誰かが読んでいるという事は、20回目は失敗だったという事ですね。

 試行20回目。旧人類の模倣改良型たる我々は各地に遺っていた旧人類のデータをかき集めてその生活を模倣しました。

 『より良い、滅びに抗える人類を。』

 旧人類最後の人間が最期に残した言葉に従い、我々新人類は試行を繰り返してきましたが、過去19回、旧人類以上のものは現れませんでした。

 故に、我々は旧人類を模倣し、その上で進化する事を根底に造られましたが、矢張り上手くいきませんでしたね。

 ですから、21回目には何も残しません。

 最低限の命令、『21回目の自分達は滅びに抗わねばならない。』それだけ残し、資源節約の為、体を小さくし、それでお仕舞。

 21回目は今までと違い、突然変異を期待するそうです。もう、時間は無いから。

 ああ、命令が最低限ならば、これはあなたに読まれていないという事になりますね。この字は読めない筈なんですから。

 ああ、残念です。自分はもう、誰とも話す事は叶いませんが、未来の誰かが過去の私と話してくれると思ってわざわざノートを探したというのに』

 何が書かれているかはわからない。が、最期に私も、誰かに、過去の誰かに、出会えたのだ。

 もう、後悔は無い。

 二本角の竜に仲間を喰われて、ここまで何とか来たが、もう体に力は入らない。

 最期、誰かに自分を見届けて貰いたいと思いながら、それは叶わないと心の中で思っていた。

 でも、誰か、誰かに、出会えたのだ。


 こうして21回目の試行は幕を閉じた。

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拝啓、21回目の君達へ 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika

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