出遅れた私

 夏休みに入って、思わぬ誤算があった。

 一回生の中で、私だけが補習をくらったのだ。

 しかし、最初の一週間分は別荘暮らしに参加できない分、1200円支払いを免除された。


 気を取り直して、創作がんばらないとね。

 そう思いながらバスに乗り込んでしばらくして……奇妙なことに気付いた。


「……あれ?」


 私が降りるべきバス停……【————】前の表示がない。

 ひょっとして、バスを乗り間違えたかな?

 そう思ってスマホで検索をかけてみたが……やっぱり乗ったバスはあっているみたいだった。


 なのに……どうして?


 ネットが正しければ、次のバス停から三つ先が目的地、【――――】前なのに……。


『次は【●●】前、【●●】前……』

「…………」


 悶々としている間に、どんどんバスは進んでいく。

 たどり着けないのでは? という不安が大きくなる。

 だから――、


 次のバス停で止まったら、運転手さんに訊こう。


 ――そう思った直後。


「あっ!」


 窓の外に【――――】前と書かれたバス停が見えて、私は停止ボタンを押した。


「お、降ります! すみません! 降ろしてください!」


 はしたなく声をあげて、バスは緩やかに減速する。

 つい、大きな声を出してしまったと恥ずかしくも思ったのだが……誰も私を見ていなかった。


 そして、バスが止まる。

 でも、何故か運転手は停車のアナウンスをしない。


 おかしいなと思い席から立った直後――私は外の空気を吸っていた。


「…………あ、れ?」


 目前にはバス停の立て看板【――――】前……そうか、バス降りたんだ私。

 それから、当初の目的通りあのログハウスを目指す。

 けれど、


「痛っ――」


 足の裏に木の枝が刺さって、思わず悲鳴をあげる。

 何故か、私は靴を履いていなかった。 

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