霧の中を歩いている

Wkumo

いつか辿り着く

 森の中を走っていた。

 そう、あのときはまだ。

 抜けられたのかどうかは知らない。さらに深い霧の中。何一つ見えることはない。

 あの森はどうしたか。

 ここがそうなのか。

 知らない、わからない、問題はあの時の俺が森を走っていたということ、今の俺が霧の中にいるということ。

 森を走っている間に勇者は消えてしまった。

 だからボランティアでそれをやっている。俺が。

 報酬はない。知名度も名誉も。

 誰もそれを知らない。勝手にやっている。

 魔王はいる、いはするのだが、本当に倒さなければいけないのかどうかはわからない。

 そもそも勇者そのものが見捨てられた職業ではあるのだ。

 邪魔者、しかし世界のパーツとして必要ではあるもの。

 皆扱いに困っている。捨てたがっている。

 そんなものをなぜボランティアでやっているのか。

 なぜだろうな。

 救いたかったのかもしれない。

 世界を。

 いや、魔王をか?

 親しかったことはない。そもそも面識すらない。

 最近では動きもないようで。

 俺も昔は村に住んでいた、村にいたころの俺は……魔王の子、と呼ばれていた。忌み子だと。

 真実そうなら俺の親族は魔王というわけで、もしそうならやっぱり会いにいきたいじゃないか。

 ならば俺が救いたいのは魔王ではなく、俺自身の孤独であるのか。

 わからない。

 それでもいい。

 霧の中を歩き続ける目的が欲しいだけ。

 「希望」が欲しいだけ。

 ここをずっと歩いて歩き続けた先で魔王、同胞に会えるなら。

 歩き続けるのも悪くはないなと思うのだ。

 そうして今日も、霧の中を歩いている。

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