屈強な兵士たちの受難

トト

屈強な兵士たちの受難

「もうそろそろあの時期だな」

「あぁ、そうだな」


 たぶん隊長クラスだろう。屈強な騎士が二人、テーブルに顔を付き合わせながら何かをぼそぼそと話している。

 顔はよく見えないが、たぶんその重苦しい雰囲気からとても楽しい話ではないことがうかがえた。

 普段は鬼の教官として新米兵士たちを震え上がらせている二人だったが、よく見ればまるで怯えた子リスように体を縮こませ、小刻みに震えていることがわかるだろう。

  そんなところに新米兵士が入って来た。


「もうそろそろあの時期だな」

「あぁ、そうだな」


 にこやかに談笑する二人の新米兵士。


「今年はいくつもらえるかな」

「おい、おい、お前そんなにもてないだろ」

「何を、これでも村を出る前には何人もの女性たちから告白されたんだぞ」


 その時ダン! と部屋を揺るがすような地響きが鳴り響いた。

 ビクリと新米兵士が音の鳴った方を見る。

 見るも無残に真っ二つにされた机。


「お前たち……」

「ヨルダス隊長」


 目を血走らせながらヨルダス隊長と呼ばれた騎士が今にも飛び掛かからんばかりの勢いでこちらを睨んでいる。


「やめるんだ、ヨルダスあいつらは何も知らないんだ」

「しかし、アザル」


 アザルと呼ばれた騎士が、ヨルダスと兵士の間に割って入る。


「君たちすまないね、ちょっと気が立っていて」

「いえ、大切なお話の最中失礼しました」


 新米兵士は逃げるように部屋を飛び出した。


「アザル、なぜ言ってやらない!」


 プルプルと震えるヨルダスの肩をアザルがそっと抱き寄せる。


「仕方ない。誰かが犠牲にならないといけないんだ」


 今にも血の涙を流さんばかりの親友の心の叫びを聞いて、ヨルダスも握りしめていたこぶしをそっと下ろす。


 バレンタイン。女性から男性に愛の告白をする日。

 帝国民のほとんどの若者たちはその甘い響きのイベントに心を躍らせていることだろう。


 しかし帝国の最南端のこの国では全く違った大きなイベントを意味していた。


 最南端のさらに先。帝国に唯一取り込むことができていない村『アマゾネス』。

 そこはなぜか女しか生まれないと言われている特殊な村だ。そしてそこで生まれた女たちはことごとく強靭な肉体と高い戦闘能力持っていた。

 そして年に一度バレンタインデーの夜にだけ、その村の女たちは強い雄の遺伝子を求め、この帝国最南端の街を訪れる。


 強力な媚薬入りのチョコレートを携えて。


 そしてここに配属されたばかりの何も知らない将来有望な兵士たちは、精根尽きるまで食らいつくされるのだ。

 本当に二度と女性を抱きたくなくなるぐらいに。


 数十年前、さっきの若者たちと同じようにこの地にやってきたヨルダスとアザルもその犠牲者の一人だった。そして今もこの時期、街にチョコレートの店が並ぶようになると恐怖で足がすくみ一歩も外を出歩けなくなり、毎晩悪夢にうなされるのだった。

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屈強な兵士たちの受難 トト @toto_kitakaze

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