僕の恋人はカクヨムに夢中

あいる

第1話~困った恋人そして大切な恋人

 実花の唯一の楽しみだと聞いている小説投稿サイトカクヨム


 そこでどんな物語を書いているのか知らなかった。


 SNSをやらない彼女にとって、一生懸命書いた作品を投稿して一喜一憂したりエッセイで読者とコメントのやり取りをするのが楽しいらしい。


「どんな作品を書いてるのか、一度読ませてみてよ」

 何度も言ったけど、実花は恥ずかしいからヤダという。


 こっそり見てみようと思ってサイトを覗いてみても、膨大な数の作品、ペンネームすらわからないから一度も読めたことがない。

 Web小説で人気があるのは異世界転生やファンタジーだということくらい僕も知っている、投稿サイトから生まれた作品がコミックや書籍化されたり、人気の作品はテレビアニメ化されることもあるというが、実花はそんな作品をほとんど読まないし、きっと書いてもいないだろうと思う。

 恋愛小説を書くにしても、実花の恋愛経験は少ないはずだ。

(もっとも僕に知らせてないだけかもしれないが)


 まぁ、恋愛経験が多いから良い小説を書けるはずもない、異世界物を書く人だって空想と妄想で書いてるはずだし。


 仕事以外で活字を読まない僕も、いつからかカクヨムに夢中になった。

 通勤時間の暇つぶしには最適で気がつけば、昼休みにもサイトを開いている。

 最初こそ、こっそりと読んでいたのだが、面白かった作品に面白い作品をありがとうと伝えるための♡応援ボタンを残したいと思い登録して読み専となった。

 今ではたくさんの作品をフォローして更新を楽しみにしている。

 アカウント名はmika725

 実花の誕生日を忘れないために──


 去年の春、偶然出会った恋人。

 出会いは最寄り駅のタクシー乗り場、彼女はおばあさんと一緒に大きな荷物を持ってタクシーを待っていた。

「お嬢さん、ここまで荷物を運んでくれてありがとう、ここからは大丈夫ですから」

「いや、私、今日は暇なので、荷物を載せるまで一緒にいますから、おばぁちゃん心配しないで」

 優しい女の子だと思った、その日は警報が出るような大雨で僕は傘も持ってないからタクシーを待っていた。

 ようやく順番が来てタクシーに荷物を運び、大きな手を振って彼女は立ち去ろうとした。

 ふと見ると、手には傘を持っていない、思わず僕は声をかけた。

「よかったら一緒に乗って行きませんか?料金はもちろん僕が払いますから」


「いえ、私の住んでるのは違う駅なので」と断られた。


 確かに、見知らぬ男性に声をかけられたら不安になるだろうと思う

 それにしても、全く他人のために違う駅まできたのだろうか?


 凄く興味が湧いた、見た目だけでなく彼女のことを知りたいと思った。


「僕の名前は立花、立花康太です、怪しいものではありません」

 財布の中から免許証と社員証を出して彼女に見せた。


「あ、いえそこまでして頂かなくても、確かに悪い人には見えません、それじゃお言葉に甘えます」


 その日にLINEのIDを渡したけど、彼女はSNSすらやっていなくて、どうにか、携帯番号だけを渡した。


 数日後に、彼女から着信が入った、「お礼をしたいからご飯でもどうですか?」


 その日から僕は彼女に恋をした。


 付き合い始めてから聞いたことには、何度も電話をかけようとしたけど、緊張して数日後になったらしい。

 ◇◇◇



 カクヨムアニバーサリーコンテスト

 春の恒例だというお祭りが真っ最中の今はたくさんの短編小説が毎日投稿される。

 字数制限があるからなのか、読みやすくてサクサク読める。


 出されたお題に沿って書かれる物語は、それぞれに着眼点が違うし自由だ。


 自分が描きやすい世界の中で工夫されている。


 エッセイもあれば、SFやミステリー、自作のスピンオフ作品など多種多様な作品の数々。


 読み始めると夢中になる気持ちも分かるようになった。さすがに書いてみようとは思わないけど、好きな作品を書いている人には応援したいし、願いを叶えて欲しい。


 今月に入ってたくさんの作品を読んで見たけれど、実花のペンネームはわからないままだし、かといって恋人とはいえスマホを覗き見するのは僕のポリシーとは違いすぎる。


 ただ、お題が出される度に暫くは音信不通になる恋人はどうにかして欲しい。


 いつか、実花の作品を読んで応援ボタンを押すのが楽しみだ。


そのためにはペンネームを聞き出さないと……それが大変なんだよな。


~おしまい~









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僕の恋人はカクヨムに夢中 あいる @chiaki_1116

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