第5話 碧との関係

 碧に呼び止められた真誉は足を止めて視線を碧に定めた。

 前に会った時から変わっていない。元気と可愛さを兼ね備えており相変わらず良い女という言葉が当てはまっていた。


 こんな美少女と何故卒業の時に別れたのか。

 周囲の者からすれば何で?勿体ないという言葉が出てくるだろう。


 碧に呼ばれ、そのまま真誉は碧の家にお邪魔する。

 碧が強引なのは昔から変わっていないので、少し話に付き合うかしないと面倒くさいのが目に見えていた。



 真誉はそういえば誰にもまだ言ってなかったなと気付く。

 心してよく聞けよと前置きをした上で、真誉は那由多の事を話し始めた。


 「……えっ。嘘。そんなの。それでなゆちゃんは大丈夫なの?」

 事故に会って入院して、集中治療室で治療中だと言っているのだから大丈夫なはずがない。

 真誉は強がりも込めて、強姦以外の事を話していった。



 「……真誉、辛いよね、苦しいよね、悲しいよね、空しいよね。そのやり場のない怒りや悲しみを私にぶつけて。私は全てを受け止めるし受け入れる。」

 それがセフレという関係でしょと言わんばかりに。


 コンドームは切らしていたけれど、アフターピルならば残っているとの事で使用するからと。


 結局真誉と碧は部屋で男女のまぐわい行為を2時間もの間続けた。

 やり場のない感情が支配していた真誉は、その感情をぶつけるかの如く碧に発散した。

 碧もまたその行為を燃えるように受け止め乱れ弾けた。

 その結果、全ての穴から溢れ出ている。体中が色々な液体でコーディングされていた。


 部屋の中は換気が必要なくらい雄雌の獣欲の証が充満していた。


 これだけの事をしているにも関わらず、なぜ約2年前に二人は別れたのか。

 周囲に勿体ないと言われても仕方がないほどの現状であった。


 

 「汗流したい。」

 真誉の身体は汗と碧の体液でべとべとになっていた。

 せっかく家で風呂に入ってから外に出たというのに無駄になる所だった。



 「シャワーならすぐ使えるよ。」


 「じゃぁお言葉に甘えて使うぞ。」


 真誉がシャワーを浴びている所に碧が乱入してきてエクストララウンドが始まったのは言うまでもない。

 「洗ってあげるね。」


 先程まで何度も見てきた引き締まった無駄の少ない碧の身体。

 無駄が少ないという事は当然脂肪も少ない。脂肪も少ないとなれば胸も少ない。



 「顎が痛い。」と言っている碧を視野の外に置き、真誉は着替える。

 正直、那由多が大変な時になにをしているんだと自身を叱責したい思いで溢れていた。


 「3時間のロスだけど。」

 真誉が傍にいたからといって目覚めるわけでもない。

 それでも少しでも早く那由多の元に駆け付けたいと思うのは兄故だからだ。 


☆ ☆ ☆


 那由多の見舞いには碧も着いて行く事になった。

 

 「このケースの中にはなゆの着替え等が入っているんだ。」

 キャリーケースを指さして真誉は碧に説明する。


 「碧も来るか?」

 真誉は碧が那由多を自分の妹のように可愛がっていた事を知っている。

 二人が別れてからもその関係は変わらず、近所の人からは本当の姉妹のように映っていた事だろう。


 「……え?あ……うん。どうしようかな。」

 碧だったら即答で行くと答えると思っていた真誉には、その回答に戸惑いを覚えた。


 「……そう……だね。私も行く。」

 結果的には行く事を承諾したけれど、その言い回しには違和感を感じる真誉。

 もしかすると、酷い状態で見るのが辛いので戸惑ったのだろうか。真誉はそう思った。



☆ ☆ ☆


 「……ぁ。な、なゆちゃ……ん。どう……して。うぅっ、うぐっ。ぐすっ……」

 両目を見開き驚愕した後、碧はガラス越しに映る那由多の現状を見て嗚咽を漏らしていた。

 

 その二人の姿を見て、真誉は込み上げてくるモノを、天井の無数の穴をを見る事で堪えていた。



 「落ち着いたか?」

 少し離れたところにある休憩所で、自動販売機で買ったお茶を碧に手渡しながら真誉は尋ねた。


 「……うぅ。うん。なゆちゃん……大丈夫なの?」

 あの状態で大丈夫だとは言えない。

 見た目ほどの外傷は多くはない。骨折や打ち身はあるようだけれど、内臓損傷のような臓器や脳に傷がないだろうとは昨日説明を受けている。


 「わからない。」

 そう答えるしか真誉には出来なかった。


 「俺は暫く病院と自宅を行き来する事になると思う。会社も暫くは休んで良いと上司からも言われているからな。」

 どうしても必要な場合は前日までに連絡が来るようになっていた。

 ちょっとした会議のようなものであれば、リモート会議で出来るので時と場所さえ考えれば不可能ではない。



 「……私、ちょっと耐えられそうにない。たまにお見舞いには来たいけど、暫くは落ち着きたい。」

 碧のその言葉に驚く真誉ではあるが、あの状態を見せられてはずっとそばにいると精神がすり減ってしまうだろう。

 家族である真誉でなければそれは酷というものでもあった。


 「あぁ。たまに顔を見に来てくれ。目が覚めた時にお前がいてくれればなゆもきっと喜ぶ。」

 せめて集中治療室から出られればな、と思っている真誉。

 その細い手を握って力を与えてあげたい、少しでも不安を取り除きたい。


 でもそれは自分の不安を取り除きたいと思う行為でもある。

 那由多の温もりを感じる事が出来れば、僅かながらでも希望を抱く事が出来る。

 自身に言い聞かせる事が出来る。


 「私、帰るね。」

 少し冷たいと感じるかもしれないが、こんな事になってるとは思っていない碧にとっては衝撃が強すぎたのかも知れない。


 「あぁ。気を付けて帰れよ。俺はなゆについていてあげないといけないし。送ってやれないけど。」


 「うん。気遣いありがとう。真誉も押し潰されそうになったら私を頼ってね。のように。」

 それだけ言って、碧は立ち上がってそのまま歩いて行った。


 「昔のように……か。」

 二人して過去を思い出すかのように物思いに耽っているようであるが、少なくとも真誉の中で昔のようにというのは考えられなかった。


 「今の距離感割り切りだから良いけど、それはもうないだろ。セックスあんな事はしているけど、俺達のは恋人の行為とは違うだろ。」

 今日の事も振り返り、真秋は碧に対する思いも想いも振り払った。


 今の真誉には那由多こそが全て。

 彼女の目覚めこそが全てだった。


 「願いの叶う7つのボールでもあればな……」

 荒唐無稽な二次元に縋りたくなるくらいには、真誉の精神はすり減っていた。



――――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 真誉と碧は2年前までは恋人でした。

 現在は幼馴染兼セフレの関係です。

 現在の碧に恋人がいるかは不明です。

 なぜ別れてセフレという関係になったのかはいつかは明らかになります。


 忘れた頃にですが。

 そういえば、碧はアフターピル服用したんですかね。

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