第7話 [のどかな朝]
[のどかな朝]
翌朝、ふと気づくともうそこは東北らしい牧歌的な風景の中だった。
モハネ583、5号車7番下は太平洋側の寝台である。
緑の草が生い茂り、山々は緩やかな稜線を描く。
真夏だというのに柔らかな陽光は秋の気配だ。
おはよう放送が入る。昨夜と同じヴィヴァルディの「春」だが
この風景には似合いかもしれないと思う。
寝台特急583、夜のイメージではなく昼間のイメージにも似合いの
クリーム色と青の新幹線0系のようなボディの塗装であるし、
室内はといえば天井や壁の色は国鉄時代のままの淡緑色だが
寝台カーテン、シートモケットや洗面所などの設備も華やかな色合いとされ、
「春」という曲のイメージにも似合っている、と思える。
八戸到着は5:52。
明るい陽光がさんさんと降りそそいでいるが、どこかそれは高緯度を感じさせる
爽やかな光線である。
早朝とはいえ、かなりの乗客が降りてゆく。
2002年12月の東北新幹線延伸時には、3時間弱で東京から来れる、というが..
都市近郊のようにしてしまうのが惜しいような東北ののんびりとした風景、である。
三沢には6:07に到着。
ここでもかなりの用務客らしき乗降がある。
三沢といえば軍用施設があることでも有名であるし、関連して大手企業などの
現地拠点が存在しているからでもある。
筆者の知人にも三沢駐在の者がいるが、東京との往来はもっぱら航空機
が多い、と聞く。
東北新幹線延伸時には鉄道利用に切り替えたい、とも言っていたが...
理由として昨年のテロ事件などを挙げ、3時間弱であれば
それほど航空機の優位性はなく、むしろ安全な分鉄道優位だ、とも言っていた。
確かにトレイン・ジャックは映画の中の出来事くらいで、現実例は少ない。
あとはコストダウンにJR東日本が積極的になれるか、という問題もあるが
東北新幹線の特急料金には特例を設けるとの伝聞もあり
頼もしい限りであると思える。
しかし、その一方で東北本線が分断されてしまうのは哀しいこと、ではあるが。
原案にあった単線並列での残存という訳にはいかなかったのであろうか
などと今更にして思う。
野辺地、6:26
列車は方向を変えて陸奥湾を望む。
田園風景に変えて津軽海峡の青い海と空が開けて解放的である。
最高速近くで走る重厚な583系の車輪の響きも
どこか軽やかに感じられる終着駅付近である。
車窓からの風景も漁村の、のんびりとした風景が主だが
なにぶん速度が早く、確認することすら困難な程だ。
モーターの響きも軽快。
直流モーター駆動のこの583系、交流インヴァータ制御が主流の現在では
やや、古いタイプのイメージだが、直流モーターを抵抗で制御するという
この形式故にモーター音が一定の音色であり、寝台電車の駆動源としては
眠りを妨げる騒音源にはなりにくい、という利点になるとも言える。
最新の寝台電車、285系「サンライズエクスプレス」などは交流モーター
インヴァータ制御であるためか、7両編成のうち2両のモーター車はカーペット車などに使用し
寝台施設使用料金が安いグレード向き、としたのもモーター音への配慮である
とも考えられる。制御機器であるインヴァーターの音はちょっと音楽的なので
個人的にはおもしろい音と思うが。
----[メモ]--------
*モーターカーと制御方式*
電気でモーターを駆動するタイプの車両では、駆動力の制御に様々な方式があり、
基本はモーターの駆動力を電流/電圧で制御するのであるが
モーターは磁力によって力が発生する、という構造上の理由から加える電力で
駆動力を増減出来る、という考えによるもの。
古くからあるのが抵抗器を用いて電圧を加減する、というもの(抵抗制御。)
考え方としてはラジオなどのヴォリュームと同じ。
直流モーターではこのような制御が一般的なのは、直流を扱うという以上、電圧と
電流以外に制御要因がないからで、後年になって大電力用の半導体が実用になってから
電気を断続的に流す、という事で制御を行おうと試みた(チョッパ制御。)
この考えを進め、近年は交流モーターに印加する周波数などを発振器で変化
させて制御する、という方式が主流である(インヴァーター制御。)
抵抗制御では電力のエネルギーを熱として捨ててしまうが、インヴァータ制御では
半導体回路の熱ロス、程度の損失であるから省エネルギーな制御方式である。
しかし、周波数を変化させるという機構上それが人間に音として聞こえてしまうので
静粛さを要求される、例えば寝台列車などでは騒音源となりうる、とも考えられる。
因みに制御方式で音も違うので、このあたりの音色の違いを楽しむのは
近年の電車乗車の楽しみのひとつになっている?とも言えるかもしれない。
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