第5話

「本屋がある」「そりゃあ、あるだろう」「アナログなことに、カメラもミラーも付いていない古い本屋だ」「豪鬼だな」「買取オンリーの岩波文庫も売っていて、結構重宝している本屋だ」「それがどうしたの?」「角川文庫の梶井基次郎『檸檬』が無くなっている」「そりゃあ、文庫の一冊もないこともあるだろう」「新潮文庫の『蟹工船・党生活者』はあるのに、夏目漱石の『坊っちゃん』が何処にもない」「何処にも?」「講談社にも集英社にも角川にも置いていない」「それは気になるな」「僕は昔本屋でバイトをしていたことがあるのだが、あの本屋はあまり在庫のチェックはしない趣味でやっている本屋だと思う」「ふむ」「つまり、万引し放題の、本好きとしては許せない輩だ」「一点気づいたことがある」「云ってみろ」「文庫のレーベルは関係ないんじゃないか」「つまり?」「インターネットの先駆者、明治大正昭和の正義の文学の門、それはつまり、青空文庫だ」

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