第4話

何故万引しようと思ったのか、アリスは決していじめが原因ではないと思っている。確かに本屋では自分の他に女子の集団がこっちを伺いつつも雑誌を眺めている。あの女子の集団はきっと自分たちがいじめていて、こっちがいじめを受けていると思うはずだ。勿論ある意味では正しいのだけれど、実はもう一方では間違っている。例えば万引しているのを見つかって、泣きながらそれがいじめている人のせいで行われていたとなれば、こちらの勝ちとなる。だが、女子生徒にとって「お菓子を受け取らなかった」ことから端を発すること位で、ここまで「いじめられることに成功している」ことは歓喜なのだろう。社会的失敗よりも個人的成功が勝っているのだ。だからカメラの置いていない本屋を選び、岩波文庫の芥川龍之介「羅生門」を手に取り盗んだ。いや、盗もうとした。それを止めたのは、精悍な男だった。その時、多分ほっとした。ああ、ようやく全てが壊れるのだなあと。

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