第2話 隣人

「入ってきてください。」


 先生がそう言うと、ドアがガラッと音を立てて開く。そして入ってきたのは見たことのある顔立ちをした誰が見ても美少女と答えるであろう清楚な女子高生だった。

 

「おいおい、めっちゃ可愛いじゃん!」


「可愛いね。」


 修一しゅういちわたるが口を揃えて可愛いと言っている。実際俺もそう思う。でもこの感じはなんだ?なぜか見たことあるような気がするのだが・・・


 そう考えていると彼女の自己紹介が始まる。


 「柏木高校かしわぎこうこうから来ました。篠崎碧しのざきあおいです。これからよろしくお願いします。」


 彼女が自己紹介をするとクラスの男子や女子が騒ぎ出す。それだけ皆も可愛いと思っているということだろう。まぁ俺と関わることもないだろうと思うが・・・


 「じゃあ空いてる場所で・・・神崎かんざきお前の隣に教室の端にある机を持っていってやれ!」


 なぜ俺の隣なんだ?他にも空いてる場所あるだろう。そう考えながら俺は席の隣に机を持っていく。


 「いいなぁすぐる。あんなに可愛い子が隣の席になって」


 「ねたみにしか聞こえないんだが・・・」


 修一はそういうが、実際クラス全員が同じことを思っているだろう。なぜ、あんな冴えない奴の隣なんだとか思っているだろう。しかし、それは俺にもわからない。


 「でもよかったね。このクラスはほぼ男子しかいないし」


 航が言う通りこのクラスは全員で三十二人だがその中で男子が二十五人、女子が七人とほとんど男子で構成されている。しかし、学校全体で考えると男女ともにほぼ同じ人数だ。そのため、このクラスがイレギュラーなのだ。


 そうこうしている内に、彼女が自身の席にやって来る。


 「傑くん!これからよろしくね!」


 「う、うん。よろしく」


 なぜ彼女が俺の下の名前を知っているんだ?それに、いきなり下の名前で呼ぶのはなぜだろうか。どこかで会ったことあるかはわからないが、会ったことがある気はするのはなぜだろう。


 それを考えているうちに、いつの間にか午前の行事が終わり、下校の時間になった。そのため、俺は席から立つ。すると、修一と航から呼び止められる。


 「これからゲーセンいかね?」

 

 「一緒にいこうよ!」


 俺がゲーム好きな事を二人は知っている。だからこそ、彼らは自分たちの時間が空いた時に誘ってくれる。


 「悪い、今日はMSOのイベント開催日なんだ。だから今日はパス。」


 「そ、そうか。わかった。じゃあまた明日な。」


 「そうなんだ!また明日ね!」

 

 今日は俺が世界ランキング三位まで上り詰めたMSO、通称マスタリー・センス・オンライン、戦闘センスとスキルの良さが問われるこのMMORPGゲームのイベント開催日だ。


 (今回は絶対一位になってやる!)


 俺は今まで二位になったことがあるが、一位になった事はない。なぜかいつもBLUEというユーザーに負けている。あいつは技の威力やスキルが強いのは勿論だが、戦闘の技術力が他の奴らよりも頭ひとつ抜けている。だから俺は勝てないのだ。しかし、俺は今回のイベントで勝つために技術を磨いた。だから今回は自信がある。


 そしてマンションの自身の部屋へ戻り、シャワーを浴びて、服を着替え、パソコンの電源をつける。


 「よし!やるか!今日は徹夜コースだぜ!」


 そしてパソコンの起動を待っていると、ピンポーンとインターホンが鳴った。誰だろうか、修一と航は俺がここに住んでいるのを知らないはずだ。だからこの時間に訪ねてくる人なんて居ないはずなのに。


 



 「え!?なんで君が・・・」



 俺はドアの前に立っていた人物に驚いた。なぜならそこには、今日自身のクラスに転校してきた篠崎碧しのざきあおいがいたからだ。忘れ物を届けに来たのだろうか。てかなんで俺の部屋を知ってるんだ?


 「は、はい!何か用でしょうか?」


 そう言いながらドアを開け顔を出すと、彼女はとても驚いた顔をしていた。その顔をみて俺自身も驚く。そして沈黙の時間が3秒ほど続いた。


 「な、何か用でしょうか?」


 沈黙の状態が続いていたので、俺が話を戻す。すると彼女は頬を赤らめてうつむいた。


 「と、隣に引っ越してきたの!だ、だから挨拶にきたのよ!」


 「そ、そうなんですか。よ、よろしくお願いします。それでは、お、俺はこれからすることがあるで、し、失礼します。」


 なんで俺は、女子の前だとこんな話し方しかできないのだろう。これも直さないとな。それに彼女も緊張している。ひょっとして男が苦手なのだろうか。まぁいい。これからイベントをしなければ・・・


 そしてイベントをするためにドアを閉め、自身の部屋に戻ろうととすると彼女に引っ張られる。

 

「ねぇ傑。」


 その言葉を聞いた瞬間、何度も聞いたことのあるようなその響きに驚く。なぜこんなに懐かしい感じがするのだろうか。


 「ねぇ、傑。私のこと覚えてないの?」


 「え?・・・」


 そして、彼女のその言葉で一瞬、俺は思考が停止した。

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