【KAC20215】初めてのスマホ

海星めりい

初めてのスマホ

「ようやくだ……ようやく手に入れたぞ!」


 手にしっくりくる重さを感じながら少年が軽くガッツポーズをしていた。

 少年の手元にあるのはスマホだ。


 どうやら、これを手に入れたことを喜んでいたらしい。

 そんな少年の元に一人の少女が近づいていく。


「へー、これが前にルー君が言っていたやつ?」


「うお!? って、なんだシーちゃんか。いきなりのぞき込むなよ、落とすかと思っただろうが。結構したんだぞ、これ」


「ゴメンゴメン。でもあんなに嬉しそうなルー君、久々に見たから……」


「そりゃ、初めてスマホを買ったんだからな。今まで欲しくてもおあずけされてたんだからこうなるって」


「へー、ちょっと興味出てきたかも。私にも見せて、見せて!」


「いいぞ、ちょっと待ってろよ。横の電源スイッチを入れれば、それで良いみたいだな」


 少年――ルー君がスマホを操作すると、電源が入ったのか画面が点灯するのと同時に企業ロゴが表示される。


「「おおー!」」


 そのまま、ホーム画面まで操作を続けたところで、少女――シーちゃんがスマホの画面を指さしながらルー君に問いかける。


「この丸いのなに? 画面に色々あるけど……」


「それはアプリってやつだな。タップするとアプリが起動して、色んなことが出来るみたいだぜ」


「へー、じゃあどれかおしてみてよ!」


「じゃあ、まずはこれからいってみるか!」


 そう言って、ルー君はレンズのアイコン――カメラアプリを起動する。

 起動すると同時にスマホの画面にはカメラを通して、周辺の景色が映し出される。


「うわ、映ってる映ってる!」


「ここがカメラみたいだな……折角起動したし、一枚ぐらいとっとくか」


 そんな風に撮影していると、シーちゃんがあることに気付く。


「画面のところにもカメラがあるみたいだけど……これは?」


「えーっと、インカメラってやつだな。画面を見ながら撮りたいときなんかに使うらしい」


「自撮りってやつ?」


「そう、それ。俺らもやってみる?」


「いいよー!」


 ルー君がスマホを操作してインカメラに切り替えると、二人は画面に収まるように近づく。


「っく!? 結構難しいなこれ……これでどうだ!」


 慣れない動きにやや苦戦しつつ写真を撮るも、


「あはははは、ちょっとぶれてる!」


「まだ慣れてないからしょうがないだろ!? もう一回だ!」


「いいよー、折角だからぶれなくなるまで付き合ったげる!」


「次で決めるから大丈夫だよ!」


 宣言どおり次の一回で上手く撮ったルー君はカメラアプリを閉じると、再びホーム画面に戻す。


「他には何が出来るの?」


「あと、簡単に出来そうなのはゲームとかか?」


「あ、ゲームやってみたい! 貸して、貸して!」


「待て、やらせてやるから……ちょっと落ち着け! ……結構、種類あるぞ。どれにする?」


「うーん、じゃあ適当に、これ!」


 シーちゃんが指さしたアイコンをタップして、ゲームアプリを起動させたルー君はスマホを渡す。


「たぶんこれで出来るはず……おっ、はじまったな」


「え、これどうやって動かすの?」


 画面にキャラクターが表示されるも全く動かない様子を見てシーちゃんが困った声をあげる。


「ほら、フリックで動かせって書いてあるじゃん。スワイプを使うともう少し広く見れたりするみたいだぞ」


「フリック? スワイプ? ってなに?」


 ルー君が操作方法を説明をするもシーちゃんはまだよく分かってないのか、首を傾げていた。


 それを見たルー君は自分の指を動かしながらシーちゃんに操作方法を説明していく。


「あー、フリックってのは、画面上で指をこう弾くっていうか、すべらせるっていうか」


「こういうこと? あっ、動いた!」


 シーちゃんはルー君の説明を受けて画面上に指を走らせるとキャラクターが動く。


「そうそう、それでスワイプってのは二本の指をこう、広げたり縮めたりすることのはず」


「ホントだー! 大っきくなったり、ちっちゃくなったりしてるー」


「よし、これならいけるだろ。あと、少しやったら俺にもやらせろよ」


「わかってるよー」


 そう言いながら二人はゲームを進めていく。


「わっ、わっ!? 溶岩に落ちたー!?」


「こいつ、ボスか!? くそっ、固いぞ!?」


「がんばれ、ルー君!」


「別のゲームもしてみるか?」


「いいのー! じゃあ、これ!」


「これってパズルゲームか? まあいいや、やってみよう」


 等々、新たなゲームなども楽しんでいた。


 そんな風に二人がスマホを使って遊んでいると一人の男性が不思議そうな顔で近づいてきた。


「ん? 二人とも何してるの? そんな古いものスマホなんて持って?」


「ルー君、昔の端末が欲しかったから買ったんだって。私も触らせてもらったけど不思議な機能が一杯だった!」


「叔父さん、これ結構面白いよ! 今のAR式ウェアラブル型端末と違って、手に持って操作するのって凄い新鮮!」


「あー、スマホをそう捉えるわけか……いや、確かに今の子からしたら逆に新鮮かもしれないな。ちょっと懐かしくなってきた。僕にも見せてくれないか?」


「いいよー!」


 叔父さんはノスタルジーを感じつつ、ルー君が持つ数十年前の端末スマホの画面をのぞき込むのだった。

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