『タリーと私の秘密の時間』

原題 Tully

監督 ジェイソン・ライトマン

公開 2018年 アメリカ

   2018年 日本


個人的点数 ★4.2/5点


あらすじ


 マーロは40代にして3人目の女の子を出産した。長男のジョナは情緒が不安定で、学校からは転校を求められた。夫は育児に非協力的で、仕事から帰れば寝室でヘッドフォンを付けゲームに熱中する。


 追い込まれた末に、マーロはナイトシッターのタリーを雇うことにした。タリーは完璧に仕事をこなし、マーロにも徐々に余裕と元気が戻ってくる。


 意気投合する2人だが、タリーの素性は謎に包まれていて––––––




以下、ネタバレ有りの感想です





 ◆ ◆ ◆


 邦題しりとりにしてみました。前回が『新しい人生のはじめかた』の「た」だったので。はい、早速しりとり終了しましたね、どうしましょう。次は終わり2文字目の「か」にしましょうか。


 どんでん返し系でした。2度観ると面白い映画だろうなと思います。要所要所に人魚というキーワードを挟んで「あー、タリーは実は人魚っていう落ちね」と思わせておいて…… 普通に騙されました(笑)旧姓が判明した時は鳥肌が立ちました。人魚には何か意味があるんでしょうか?タリーの正体のミスリードの為だけなのか、人魚という存在にも大きな意味があるのか。私にはそこまで読み解けませんでした。


 あらすじを書く為にアマプラのあらすじを参考に読もうとして「わたし、ひとに頼れないの」という出だしにまたハッとさせられました。このあらすじ作った方上手ですね。


 結局言葉通り、マーロは誰にも頼ることが出来なかった。本物のシッターを呼ぶことも、夫に助けを求めることも、悲鳴を上げている自分と向き合うことも出来なかった。


 レビューもチラッと見ましたが、やはり夫に憤る方々の意見が多かったですね(笑)なのでここでは敢えて書きません。


 タリーの正体が分かって、結構驚いて、あぁ普通に面白い映画だったなぁ、と。そこで終わっていたら3.5点くらいでした。ここから本編残り2分弱の間で4.2点まで跳ね上がった訳です。本当に声に出して泣いてしまいました、深夜4時に。


 映画ど頭でジョナの身体全体を優しくブラッシングするマーロ。正直「え、海外ってこういう習慣あるの?」と少し置いてけぼりに。そして中盤で、ブラッシングはジョナを落ち着かせる為にマーロがネットで調べた、効くかどうかも分からないセラピー療法だと判明します。そして映画の最後にもブラッシングのシーンが。そこでジョナがマーロに言います。


JONAH “Mom, is this real?”

   (ママ、これって本当?)

MARLO “What do you mean?”

   (どういう意味?)

JONAH “ I'm not sure.what it's supposed to do. ”

   (これって何に効いてるの?)

MARLO “Well, honestly, I don’t know. Do you like when we do it?”

   (正直、私も分からない。これ好き?)

JONAH “I like being by you.”

   (ママと一緒にいるのが好き)

MARLO “I like being by you too.”

   (ママも好きよ)

JONAH “And it feels nice, I guess.”

   (良い感じな気がする)

MARLO “Well, maybe that’s all that matters.”

   (その感覚が大事なのかもね)

JONAH “ Maybe we don't need the brush.”

   (じゃあ、もうブラシは要らないよ)

MARLO “Okay... Okay...”

   (そうね… そうよね… )

JONAH “I love you.”

   (ママ大好き)

MARLO “I love you too.”

   (ママも大好きよ)


 ブラシは要らないよ、で自分でもよく分からないくらいに突然泣いてしまいました。試行錯誤して、上手くいかなくて、藁にもすがる思いで手を出したのかもしれない。けれど実際はママが側にいてくれれば良いと言ってもらえる。私には出産も育児経験もありませんが、この瞬間に急にマーロの気持ちになってしまって「遠回りだったなぁ」と涙が溢れてきました。


 存在しないタリーに縋ったように、効くかどうかもわからないブラッシングでジョナが落ち着いてくれると信じたかったのかもしれません。ジョナの為のようで、実はマーロ自身がブラッシングをある種の拠り所にしていたのです。


 大切なのは夜中に家を綺麗にすることではなかった、カップケーキを作ることではなかった、ブラッシングをすることではなかった。共に時を過ごすこと、それがマーロの場合の真の救いだったのです。


 皆さんには、効果は定かではないけれど、止められずにいる習慣はありますか?私は勉強をしようとすると、いつの間にか部屋の掃除をしています(笑)それも「勉強環境を整える」という名目で本来の勉強というタスクから目を背けているだけなんですよね。深く悩んでいた事も、実は別のベクトルで解決策があるのかもしれない。逆に、解決策だと思っていたものが余計に事を難しくしているかもしれませんね。

 

 ジョナはブラッシングは要らないと言いました。それはジョナの巣立ちというよりも、マーロに向けられた試練です。「貴方の為です」と差し伸べていた手を「もう大丈夫です」と言われてしまう。そこで初めて、差し伸べていたと思っていた手が、実は支えてもらっていたのだと気づくのです。死にかけるまで夫にヘルプ信号を出せなかった彼女に、息子の症状と身体ひとつでぶつかる事が出来るのでしょうか。


 タリーにお別れを告げたマーロになら、きっと出来ると信じています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る