スマホという名の鳥かご

ポンポン帝国

スマホという名の鳥かご

 ピロリン♪


 スマホの通知音が鳴った。きっとこれは彼女からのメッセージだ。


『おはよ♪ もう起きたかな? 今日も一緒に登校しようね!』


 やっぱり正解。まぁそれも当然なんだけどね。毎日朝に、メッセージがやってくるからバカでもわかるってもんだ。別に約束した訳でもない。ただ、自然と今の形に収まっただけだった。


『おはよう。起きたよ。じゃあいつもの場所で待ち合わせね』


『うん♪ 楽しみにしてるね!』


 他愛もないメッセージのやり取り。こんなメッセージでも好きな人が相手だと嬉しくなるね。


 さっさとご飯を食べて、待ち合わせ場所まで急ぐ。その間にも何回か通知音が鳴り、小走りから全力疾走に変更して待ち合わせ場所まで着いた。


「遅いよー! 心配したんだからね?」


「ごめん、ごめん。けど、僕、いつもどおりの時間だよ?」


 目の前にいるのが僕の彼女だ。短く切り揃えた朱の入った髪に、水晶のように透き通る瞳。ふっくらとした唇は、人を狂わせるような妖艶さを含んでいる。


「それは、それ。これは、これよ!」


 付き合ってからはや一ヶ月。彼女はちょっと心配性だけど、そんな心配してくれる事が嬉しかった。


「次から気をつけます」


「もぉ。それじゃあ行くわよ」


 これが幸せってやつかぁ……。





 手をつないで無事に学校に着くと、僕達はそれぞれ違うクラスなのでお別れをして教室に入った。


「おはよー」


「おっす。ったく、お前ら窓から見てたけど、朝っからイチャイチャしてやがって羨ましいな、この野郎!」


「あはは。いいでしょ。早く彼女見つけなよ?」


「ケッ! 余計なお世話だ」


 他愛のない会話をしているとスマホから通知のバイブが鳴る。スマホを見てみると、やはり彼女からだった。


「なんだ? 早速彼女からのメッセージかよ! お熱いこって」


 そう言って去っていった友人。僕はそれを気にせずに彼女からのメッセージを開いた。


『椅子に座ったよー。もう離れ離れで寂しいな……』


 可愛い……。あまりの可愛さに文字をぼーっと眺めていると、続けてメッセージが届いた。


『ねぇ、今何してるの?』


 ん? そりゃまだ来たばっかなんだから準備でしょうに……。まぁいっか。


『鞄から教科書とか出してたよー』


『そっかぁ。』


 今思えば、これが違和感の始まりだったのかもしれない……。










 それから数週間が経ち、彼女からのメッセージが頻繁に来るようになった。


『今、何してるの?』


『既読ついてるけどどうしたの?』


『今どこ?』


 ある時、用事があって全く返信出来ない日があってから彼女の様子がおかしくなってきた。五分に一回は鳴る通知音。返信しないと催促のメッセージが送られ、嫌がる素振りを見せると心配だったからと、泣き始める。


 どこで間違ってしまったのだろうか……。


 そんな事を思っている間にも通知音は止まない。


 授業中でも鳴り、家に帰っても鳴り、部屋にいても鳴り、風呂に入っていても鳴る。


 寝ている時以外はいつでも鳴っているような状態だ。






 そんなある日、彼女に用事があって、一人で買い物に出ていた時の事だ。相変わらず通知音は鳴り止まず、その合間も短くなってくる。僕は、最近彼女との付き合いに疑問を抱くようになってしまっていた。


 仕方なく返信しようと、通知を確認しようとした時、うっかり手が滑ってスマホを落としてしまった。


「あっ」


 落ちた衝撃で液晶にヒビが入ってしまった。


 あぁ、やってしまった……。


 修理出さないといけないなぁと、それを見ていると、僕のナニかにもヒビが入っていったように感じてきた。


 そして、頭が真っ白になった瞬間、気がついたら道路に向かって、スマホを投げていた。そこをちょうど車が通って、投げたスマホは粉砕してしまった。


 ははは、初めからこうしておけばよかった。悩む事は無かったんだよ。いつの間にか僕は、彼女に作られた鳥かごの中に閉じ込められていたみたいだ。。


 そのまま家へ帰ると、二階の自分の部屋へと戻る。


 それから一時間経っても、二時間経っても、いつもじゃ鳴るはずの通知音が鳴る事はなかった。


 よかったぁ。もう何も考えないで、ゆっくり過ごせる。


 ベッドに横になりながら漫画を読んでいると、ふいに、窓が開けられる。


「どうして連絡返してくれないの?」


 どうやら僕は、まだ鳥かごから抜けられていないらしい。

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