9 杯目 胡乱

SIDE 石丸いしまる 比地大ひじた


 想定はしていたものの、私の思想に完全な賛同を得ることはできなかった。無論うどんそれ自体が多様性に富んだ食品であり、このような場での様々な思想の出現それ自体は仕方がないことである。しかしそれ以上に不愉快なのが、彼らに覇気が欠けている点だ。実際に肉声を聞いて初めて分かったが、彼らは一様に物腰が柔らかく、声は小さく、抑揚のない喋り方をしている。SNSで昼夜を問わず活発に発信しているアカウントと同一人物とはとても思えない。悪い意味でのギャップが、私を酷く失望させた。コシについて賛同を得られなかったからではない。彼らの押しのなさに私はがっかりしたのだ。これから先の闘争を共に協力し合うメンバーとして、彼らは十分な靭性じんせいを持っているのか、甚だ怪しくなった。コシの重要性について一旦置いておくにしても、彼らと共に抗議したとして、その先の勝利に向けた将来性はあるのか。闘い抜くだけのコシを彼らは有しているのか。ひょっとして彼らは、平和な学生生活というぬるま湯の中で茹でられ続けてきたのではあるまいか。


 しかし彼らがどのような人物であれ、紘目ひろめ氏に対する抗議を早急に進めなければならない状況に変わりはない。私の人脈に限りがある以上、当座のところは彼らと共に歩む以外にない。


 私の主張へのコメントが一通り出た後、この場をどう進めるべきか迷っていたところ、谷川が口を開いた。

「ま……コシについては皆さん各々の考え方があるようですが、今回はひとまず、紘目氏の主張の表層部、角の有無への反論・抗議に留めておく方が良いでしょうか。我々の中で詳細を協議しまとめる前に、まず今回勝手に創作されたマナーが不当なものという見解を、第一弾として即座に送る必要があるかと思います。既に5ちゃんねるにもスレが複数立っているようですし、世間へも、すぐに認知されるでしょう。スピード感のある対応が必要ですので、まずは抗議の意思を示し、我々の中での詳細な打合せは、先方から反応が返ってくるまでの間に進める、という方向でいかがでしょうか」


 うどん会議は、しんとしていた。


 どの出席者からも異論は出ず、先行きの見えない胡乱うろんなまま、このうどん会議はお開きとなった。

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