後日談

 というわけで、俺ら佐々木四兄弟は堤信遠の首を挙げたことで佐殿からお褒めの言葉を貰い、褒美として鎧を下げ渡された。

「うおっ、すげーカッコいい!」

四郎は歓喜した。ピカピカに光り輝く濃紺の大鎧。おまけにその左胸の鳩尾板には大きな金の飾りが付いている。右胸の板にも小ぶりの金飾り。

「これで俺もやっと源氏の武将っぽくなったぜ!」

大鎧を抱くようにして眠ること数日。

ふと気付いたら右胸の金の飾りがない。

「あれ?落とした?」

いや、落ちるようなもんじゃない。

「ああ、お前もやられたか」

太郎がそう言って、自分のと次郎の大鎧から同様に小飾りが消えたことを教えてくれた。

「まさか、とーた?」

「だろうな。出世払いと言ってたが、随分手が早い」

「俺、これ抱き締めて寝てたのに。大体、懐を傷めない程度って言ってた癖に、これ胸が傷んでるじゃねぇか!」

「被害に遭わなかったのは三郎だけのようだ」

四郎は口をひん曲げた。

「ひでー!ずりーよ!折角貰った大鎧だってのにさ」

と、誰かがそっと声をかけてきた。

「まぁまぁ、過分に頂戴した分はいつかお返ししますよ」

振り返るが誰も居ない。

「絶対だな。絶対返せよ!」

四郎は大鎧を抱きしめると、剥ぎ取られた小飾りの部分をそっと指でなぞった。



「ほれ、梶原殿の腹帯が解けかけておりますぞ」

通り過ぎる風にそう耳打ちされたのは三年程後の宇治川でのこと。

その時、四郎高綱は生死をかけて先陣争いを繰り広げていた。先陣を取れなければ死ぬと頼朝に言って鎌倉を出て来たのだ。事実、先陣を取れなくば死のうと思っていた。そこへ風の便り。高綱は先を行く麿墨を追いながら、馬上の景季に声をかけた。

「腹帯が緩んでるぞ。見っともねぇ、早く締め直せ!」

「お、こりゃ済まん」

素直な景季は鎧の上に立ち上がり、腹帯を締め直す。その隙に四郎は池月を川に乗り入れ、先に対岸に乗り上げようとした。だが、景季が声をかけてくる。

「佐々木四郎、川底に大綱が仕掛けてあるぞ」

「お、そりゃどうも。よっしゃ、俺が全部断ち切つとくから、後からゆっくり渡って来てくれ」

言って、太刀で綱をバッサバッサと断ち切って対岸へと乗り上げた。悔しがる景季。だが、こっちは命をかけて来てんだ。遠慮なんかしてられるか。

とにもかくにも先陣は制した。景季にはまた後日何か返そう。

ほぅと息を吐き、そっと辺りを見回す。

「とーた、これで貸し借りは無しだな」

呟くが返事は当然ない。でも、またどこかで会うかもな、四郎はふとそう思った。


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佐々木兄弟の源平合戦初陣譚・山木攻め 山の川さと子 @yamanoryu

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