近未来住宅

リュウ

第1話 近未来住宅


「理想的な環境です。全てこの部屋の中で完結してしまうのですから……」

と言う言葉を信じてここに住んでいる。

 快適すぎていつ入居したかも忘れてしまった。

 もちろん、誰でも住めるわけではない。

 住人の日々のライフログの記録と提供が条件となる物件だ。

 ワンルーム、バストイレ付、小さめのキッチンが付いている。

 冷暖房完備。最新規格のインターネット環境。

 壁にはめ込み型の扉がある。冷蔵庫の扉みたいな感じだ。

 そこに頼んだ品物が届けられ、取り出す。

 要らなくなった物を入れておくと処分される。

 なので、面倒な食器洗いや洗濯から解放された。

 制約といえば、窓が無いことと家族と住めないこと。

 窓が無いことは、閉鎖的に感じるがそんなことはない。

 全ての壁がプロジェクターになっていて、自分の好みに替えられる。

 森の中や南の国や月だって表示できる。

 この壁は、スピーカーも兼ねている。小鳥や波の音も聞ける。

 空調からは、より自然な風も感じられる。

 全てバーチャルなので、外敵に襲われる心配もない。

 奥深い森林の中で昼寝をしても、蚊にも刺されないし、熊に襲われることもない。

 更に、新種のウイルスが流行ってもこの部屋自体を外界から分離することができるので、

 ウイルスに感染しないし、万が一感染した場合も安心して治療を待つことができる。

 素晴らしい未来型住宅だ。

 仕事は、当然、テレワーク。

 進捗を遠隔会議で連絡したり、書類は、アップロードするだけ。

 全てこの部屋で出来てしまう。

 友だちだって、SNSやチャットで事足りる。

 

『食事が届きました』アナウンスが流れた。

 僕は、例の扉から食事を取り出しテーブルに置いた。

 壁が一般的な住宅の食堂が映し出された。

 目の前には、ショートカットの知的な妻。

 左側には、中学生位の長女。

 右側には、小学生位の長男、私と同じ食事を前に席に着いていた。

「おはよう!」みんな、笑顔を答えてくれる。

 僕の家族だ。

 と言っても、すべてバーチャルだ。

 全て選ぶことができる。個々にAI制御され、普通に会話は成立する。

 家族は、いつものように食事を終え出かけてしまった。

 ネットニュースでは、悪ふざけをする輩の画像が流れている。

 最近、この手の情報が多く目に触れる気がした。

<人間が生きていくには、ルールってものが必要だ>

 モヤモヤとしたものが心を覆った。 

 僕は、コーヒーを飲み終えると気分を変えるようと散歩に出かけることにした。

 別に家の中ですべて事足りるのだが、軽い運動と好奇心が外界へと誘うからだ。

 コンビニによることにした。久しぶりにワインでも買うことにした。

 コンビニには、ネットで売っていないものも出回っていることがあるから。

 コンビニ前で輩がたむろしている。

 私は、観ないふりをして店内に入った。

 私は、彼らが苦手だった。

 ルールを破ることがカッコイイと感じているヤツらが苦手だった。

 そう、何もしていない人を襲うカラスや野生のサルを見た時の感覚に似ている。

 コンビニを出た時、女の子が絡まれていた。

 なんでも、こちらを見たとか見ないとかいう話らしい。

 きっかけがあれば、彼らには何でもいい。

 羽交い絞めにされた女の子を見たとき、私は、強い怒りを感じキレテしまった。

 手に持ったワインで、羽交い絞めにしていたヤツを思い切り殴った。

 直ぐにコンビニ店員が警察を呼んだ。

 私と殴られた輩がその場に残された。

『俺は、悪くない。罰しただけだ』

 私には、達成感があった。


 私は、警察に連行されたところまでは覚えているが、いつの間にか寝台に寝かされていた。

 意識は、あるが体が動かなかった。

 頭の上で、話し声が聞こえる。

「この人、前のテストの時にもやらかしてます」

「そうだな、記録に残っているだけで三回目だな」

「閉鎖的環境のせいですかね」

「このびっくりカメラみたいなテストで、犯罪予備群を洗い出すですか?」

「そうだな。この人のライフログを表示してくれ」

「出ました」二人は、画面を見ているらしい。

「事件の全容から考えると、自分がヒーローみたいな、正義のためなら何をしてもいいみたいな考えかたですかね」

「おっ、このドーパミンの量、多いですね。フラグ立てておいて、コメントも忘れずに」

 キーボードをたたく音が聞こえる。

「はい、『快楽的犯罪者になる可能性あり』っと」


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近未来住宅 リュウ @ryu_labo

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