継承 真壁倫太郎(まかべりんたろう)

 おれは祓い屋としては腕の立つ方だと自負していた。だがこいつは…おれ一人には手に負えない代物だった。


 ちょっとした地縛霊を祓うだけ。そんな依頼だったはずだ。記憶があいまいだ。


 この廃村に閉じ込められてどれくらいたっただろうか。村役場になにか有益な情報があるかと思ったが、これが失敗だった。やばいヤツが徘徊している。


 札も霊薬も尽きた。こんなことなら除霊弾のリボルバーを持ってきとくんだった。それでも状況はそんなに変わらなかったかもしれないが。


 床を引き摺る音。あの挽肉ハンマー野郎だ。


 どうやら、おれも年貢の納め時らしい。



 ***



 このに叩きつけられてから、時間の感覚があいまいだ。


 まさか死ぬことすらできないとは。



 ***



 ガキが一人、迷い込んできた。ご愁傷さま。


 と、思ったらハンマー男を笑いながらぶっ殺しやがった。まじかよ。


 ついでに、おれにガソリンをぶっかけて燃やしやがった。死ねなかったけど。とんでもねえガキだ。


 名を駿といった。



 ***



 駿のやつ、最初はおれのことをセーブポイントさんと呼んでた。意味わかんねえ。しゃべるのが大変なんだ。何しろ口がないからな。目玉も一個しか残ってねえし。なんでわかるかって?目の前に一個落ちてるからだよ!円滑に意思疎通できるようになるまで結構な時間がかかった。


 おれは真壁ってうまく発音できなくて、結局駿はおれを「壁さん」と呼ぶようになった。もうどうでもいいぜ。



 ***



 駿のおかげで、正気を保っていられる。


 おれは口下手だ。以前は無口なナイスミドルで通してたんだからな。


 あいつに教えられることは、全て教えた。弟子なんて取ったことがなかったが、そんなおれにしては上出来だったと思う。元々とんでもないガキだったが、今となっちゃもう手が付けられねえ強さだ。同業者なかまに見せてやりたいぜ。おれの弟子だ。



 ***



 駿の振るった刃が、おれのを奔り抜ける、おれは自分が斬られたのを実感した。


 一応同業者なかまのたまり場を教えたが、あいつがおれと同じ道を行くかわからない。むしろ別の分野で成功してほしいとすら思ってる。そっちの方が痛快じゃないか?


 意識が薄れていく。


 泣くなよ。おれはうれしいんだ。


 おまえは最初で最後で最高の弟子だ。


 約束守ってくれて、ありがとよ。


 がんばれよ駿。


 おまえなら、なんだって乗り越えられる。

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