第24話 スマートな解決策とジャンケン

 僕達がこちらに来たのは老婦人の話し相手になるためでなく、冒険者の仕事をしに来たわけで。

 さっそく表庭も草刈りドローンで自動で刈れるよう作業を始める。


 設定作業自体は昨日と同じ。アンテナがポールを表庭の要所に立てる。僕が座標を記録する。

 そうして座標を結んで草を刈るエリアの多角形を設定していく。

 慣れ、というのはすごいもので、昨日の半分程度の時間で座標登録の作業が終わってしまった。


「じゃあ、試運転いきまーす」


「あら、ずいぶん早く終わるのね。若い人って覚えがよくていいわね」


「やり方は掃除機ロボットの設定とあまり変わりないですから」


 そんな会話をしつつ、草刈りドローンを始動させると、特にトラブルもなくドローンはバリバリと草刈りを始めた。

 昨日の鳥が学習したのか、チチチッと鳴き声を上げながら降りてきて、ちゃっかりと草刈りドローンの背後について虫を啄み始めた。


「あらかわいい」


「ですね。すごく頭がいい」


 表庭はそもそも草もあまり伸びていなかったので、小一時間で終わりそうだ。

 この作業量の少なさで昨日と同じ額の依頼達成料を貰えるのだから、とてもお得な仕事だ。


「すごいのね、あっと言う間に終わりそう」


「そうですね。あの機械すごいです」


 楽過ぎて依頼料を減額されたら嫌なので―――そういうことはできないハズだけど―――草刈りドローンのことを誉めておいた。

 僕達がサボったんじゃありません、息子さんのプレゼントした機械がすごいんです、という論理に誘導されてくれるはずだ。

 実際、この草刈りドローンはすごい。

 さすが高級機だ。


 ところが、僕の話術が効果を表さなかったのか老婦人は「そうそう、それで相談があるんだけど」などと言い出した。


 僕は相談のために素早くアンテナとアイコンタクトを送る。

 返事は、まあ多少のプライスダウンは止む無し、といったところか。


「はい、なんでしょう」


「西川の奥さんにお話したら、すごく便利ね、というお話になってね」


「はあ」


「2件隣の奥様です」


 僕が「西川さんってどなた?」と聞きたそうな顔をしたせいか、お手伝いさんが補足してくれた。


「うちもやって欲しいっておっしゃるの。それってどうしたらいいのかしら?」


 ああ、なるほど。状況が少し飲み込めた。


 老婦人は近所のお茶のみ友達に息子さんのプレゼントの自慢をしたいわけか。

 だから「僕達が鎌で草刈りに行きます」ではダメで「この草刈りドローンを使って西川さんのお宅の庭の草を刈って欲しい」と。


 他人の機械を使って依頼者の仕事をする。

 そんな依頼、可能なんだろうか?


「…どうする、スイデン?」


「ちょっと待ってね。少し考える」


 僕達が冒険者として草刈りドローンを借りるのは、たぶんダメだ。

 保険料とかレンタル料ですごい値段になってしまう。

 西川さんも、そんな価格では依頼を請けないだろう。


 西川さんにはお金を払ってもらって、後で老婦人から差額を返すのも、たぶんお金持ちムーブ的になしだろう。


 何かもうちょっとスマートな方法はないか…


「あ」


 と、僕はとびきりの解決策を思いついたのだ。

 いろいな方向から考えてみた結果、こればベストの方策に思える。


「もし良かったら、冒険者登録をして僕達のパーティーに入りませんか?装備込みで」


 ★ ★ ★ ★ ★


「ちょっとスイデン、何言い出すのよ!」


 アンテナがいきり立って詰め寄ってくる。

 どうどう、お客様の前ですから落ち着いて。


「いやだって、そうすれば解決じゃない?」


 別に恒久的にパーティーを組もうというわけじゃない。

 今回の「お隣の西川家草刈り依頼」の際だけ、パーティーメンバーに入ってもらって装備提供してもらうだけだ。

 僕達は技術と労力を提供する。


 そうして草刈り依頼をこなしたら、報酬を老婦人にもパーティーメンバーとして配分すればいい。

 西川家で万が一何かあったとしても―――実はヤクザの家でアンテナが高い壺を割ったり黒塗りの高級車に追突したりとか―――冒険者アプリを介しての依頼なら保証もきくし、老婦人も表立って味方をしてくれるだろう。


「あらあら。こんなお婆さんも仲間に加えてもらえるの?面白いわね」


 こちらの思惑を知ってか知らずか、老婦人はすっかり乗り気になったようだ。

 僕は早速、冒険者アプリを立ち上げて老婦人を招待することから始めた。


 ちなみに冒険者への勧誘成功で僕にも10ポイント冒険者ポイントが入った。

 これで僕も「はじめての冒険者仲間をえる」の実績にチェックがついたわけだ。

 少しばかりお年を召している人の装備目当てだけど。


 ★ ★ ★ ★ ★


 老婦人がその場で電話をしたかと思うと、その足で西川さん宅へ向かうことになった。

 冒険者アプリのインストールや依頼の方法がわからないらしい。

 そりゃそうか。


「車を出しますよ?」


 と運転手を兼ねているお手伝いさんが言ってくれたのだけど、残念ながら草刈りドローンはすごく重いので普通の車に載せられない。

 動画マニュアルによればバッテリーを装備した総重量は435㎏だ。


「たしか軽トラの積載荷重って…ああそうね、350㎏ってあるわね」


 アンテナが調べてくれたけれど、大幅に重量オーバーだ。

 このドローンは1トントラックでもないと運べない。


「前はうちにも大きなトラックがあったのだけど…」


「あ、でも私道でつながってますね」


 ルート検索したところ西川さん宅はハケンゴテンの裏手にあって、元は農道らしかった私道でつながっている。


 すると、解決策としての最適なパーティー行動はこうなる。


 ・老婦人には先に行って説明してもらう。

 ・僕達のどちらかが同行して西川さんに冒険者アプリのインストールと依頼をしてもらう。

 ・僕達のどちらかが草刈りドローンをマニュアルで動かして歩きで依頼者宅へ向かう。


 つまり「僕達のどちらかが」ブルジョワジーよろしく涼しいエアコンの効いたお金持ちの車でお金持ちの家に行ってお茶とお菓子でもいただきながら、もう1人のプロレタリアートがノロノロと日差しの下でラジコンを動かしてやってくる来るのを待つことになるわけだ。


「…アンテナさん、さっき自分もドローンを操縦してみたいって言ってなかった?」


「うふふ、いやねスイデンくんったら。信頼して高い機械を任せられるのはスイデンくんしかいないわ」


 うふふおほほ、と30秒ほど陰険漫才をしたものの平和的交渉は決裂し、結局はジャンケンで決めた。


 僕は純粋に運で左右されるジャンケンが好きじゃない。

 そして今日、またジャンケンを嫌いになる理由が一つ増えた。





体調が悪いので本日(7/3)の更新は休みます

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