百物語 in 23 century

ヒトデマン

ドッペルゲンガー

「『おい待ってくれよ!街で俺と顔が一緒の人間を見たって、どういうことなんだよ!』。男が携帯で通話をしながら狼狽していると、『ただいま』と男と同じ声が外から聞こえて来る。そして扉が開く音が鳴り、男は扉を開けた人物とまともに顔を合わせてしまった」


 眩いほどの光が照らすドーム型の部屋の一室で、女性は話を終える。立体映像に映る女を、生身の人々が囲んで話を聞いていたのだ。


「……ん?それで終わりなのか?」

「ええ、終了よ。これが怪談話 No.067『ドッペルゲンガー』の内容ね」

「……で、それの何処が怪談なんだ?」


 一人の男がそう疑問を投げかけると、その場にいた全員が首を傾げる。


「怖い要素……あったかな?」

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「そういえばさ、私と同型のクローンが13番コロニーでモデルになってたのよ!これって私もモデルになれるってことかしら!?」

「同じ遺伝子だからって同じ仕事に就けるわけじゃないよ。環境によってどの遺伝子が働くのかも変わってくるしね」

「そのコロニーのレベルが低いだけだったんじゃねーの?」

「何よ!あんた達失礼ね!」

「ちょっとあんた達、話が脱線してるわよ。この物語の何処が怖いかっていう話でしょ」

「うーん、この話は怖さが分かりにくいんだよな。浮遊霊の話なんかは、電脳化個体が当局の規制を受けずに飛び回ってる!っていう分かりやすい怖さがあったんだけど」

「まって!アーカイブを検索したらドッペルゲンガーについての詳細なデータが出てきたわ!」


 話者の女が手をあげて皆の注目を集める。


「このデータによると、ドッペルゲンガーはある人物と全く同じ姿を持った存在で、他者のドッペルゲンガーなら2回、自分のドッペルゲンガーなら1回見ただけで死んでしまうそうよ」

「見たら死ぬ!?なるほど、それは怪談だなぁ」

「しかし、なぜ見たら死んでしまうんだろう」


 男がまた疑問を投げると、再び皆が首を傾げ始める。


「ドッペルゲンガーってのはもしかして、特定のクローンを殺す特性を持ったウイルスの保菌者のことを表しているんじゃねえか?」

「なるほど。一目見る、つまり肉眼で視認できる程に近づいた時点で感染し、ウイルスによって死に至ってしまうというわけか」

「だが、それだと他者が2回見ても死ぬというのが説明つかないぞ」

「特定のクローンを始末する人間ってことは、それは当局から派遣されたエージェントってことだろ?1回目は警告を受けて、2回目はエージェントの秘密を探ろうとするなって始末されるんじゃねえの」

「うーん、僕は違う意見かな」


 男が手を挙げて発言し始める。


「そういう当局からの始末を受けるってことは、何かしらの欠陥をもったクローン群だったってことだろ?話の中でそんな伏線張られてたかな?」

「うーん、話の中では男はいたって普通の男だったな。5年前に一斉処分が行われたクローン群は当局への反逆傾向があるって理由だったし」

「だから僕は、話に出ていた男は代替用のアンドロイドだったっていう説を推すよ。男は、自分がドッペルゲンガーと呼称されていた人間の代替アンドロイドだったってことを忘れていて、本人と出会ってそれを思い出し機能停止したんだよ」

「なるほど!叙述トリックってやつか!」

「何言ってんのよ。話の中で男は感情や自意識をちゃんと持っていたでしょ?アンドロイドがそんなもの持つわけないじゃない」

「……いや、僕は持つと思うよ。アンドロイドも心を持つって思ってる」

「なんだお前?万物含魂アミニズム論者だったのか?」

「違うよ。ただアンドロイドの高度な演算領域には感情が形成されうると思ってるだけで……」


 その時、話者の女が何かに気づき、立体映像を切って音声だけで話始める。


「みんな大変よ!当局の車がサイレンを流しながら集まってきてるみたい!」

「なんでだ!?怪談話ってそんなにヤバい情報だったのか?」

「さあな!でも無許可の情報サルベージは中身がなんであれ違法だ!さっさと逃げちまおう!」


 そして百物語をしていた若者達は、ドーム型の部屋からさっさと立ち去ってしまった。


 *


 先程まで若者達がいた部屋には、当局の捜査員が入り部屋の調査を行っていた。


「サルベージされていたアーカイブは、怪談話というものでした。情報制限に引っ掛かるようなデータではないかと……」

「怪談話、ねぇ」


 すると、現場を取り仕切る男に一人の捜査員が走ってやって来る。


「この部屋から、逃げ出した電脳化個体、変異したアンドロイド、そして指名手配されている未処分のクローン、それぞれの痕跡が見つかりました!サルベージャーの集団に紛れているものと思われます」


 現場を取り仕切る男は、懐から円柱形のパイプを取り出し口に咥える。その男が持つ端末には、男と全く同じ顔の人間が映っていた。


め。お前が当局に反逆したから、お前と俺以外のクローン達は……!」


 男は吐き捨てるかのように煙を吐いた。

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