商人と商品

第1話 野菜が売られる

「今回のあらすじ!!! うちの可愛いこーはいに“囮やって♡”って頼まれたからやるぞ!!!」

「電波の受信が唐突」

「急にどうしたの?」

「薬屋の純粋な疑問が一番心に刺さる」


 三人は奴隷商会の店舗に来ていた。正確には店の前であり、そこで茶番を繰り広げている。


「てか記憶の改竄ない? あんな可愛い頼み方じゃなかったでしょ」

「オタク、幻覚見るの得意」

「ロクな特技じゃないね」

「私より幻覚見てるじゃん」

「薬屋にキメてる疑惑をかけられるとは……無念」

「薬屋、殴ってもいいと思うよ」

「いや流石にそれは……」

「優しくてピュアな薬屋、プライスレス。愛した」


 ヤクチュウに愛を告げつつ、自らの手首に縄を巻いていく。決してドMではなく、奴隷として売られる感の演出のためである。着ている服は元々ボロボロだったので、着替える必要はなかった。むしろ、マリリンとヤクチュウの二人が商人らしい恰好をすることになった。


「マリリンちゃん、その服似合ってるよ!」

「薬屋も可愛いね。私が見立てた通りだよ」

「はぁ~~~!!! てぇてぇ~~~~!!!!」


 咲き誇る百合畑の間にノイズが聞こえた。


「さて、作戦の再確認をしようか」

「へーい」

「まず、これから私たちは八宝菜を奴隷として売る。この奴隷商会は確実にギャングと繋がってるから、八宝菜はそっから出品されることになるね」

「証拠はあるん?」

「いや、ないよ。だから、これから手に入れるの」

「あー、なるほど」


 証拠はない。だから、今の今まで存在を確認しつつも手が出せなかった。

 しかし、八宝菜を“商品”として売れば、その時点でマリリンとヤクチュウは“顧客”である。懐に入ってしまえば、取引の証拠などすでに得たようなもの。さらには“商品”の八宝菜が闇オークションで出品されれば……。


 つまりは、そういうことだった。


「私たちは向こうさんの“お得意様”だからね。この日のために信用を積み上げてきだんだよ」

「悪い顔しとる!!! 可愛い!!! 好き!!!」

「そうだよ! マリリンちゃんは世界一可愛い!!!」

「そういうお前も可愛いよ……!!!」

「薬屋が可愛いのは当然でしょ」

「大変だ。今すぐ空気になりたい。ハッ、そのためのレイス……?」

「馬鹿なこと言ってないで行くよ」

「はーい」

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