魔王と勇者
第1話 勇者と魔王は仲良しです
バァン!
「ヘイ、梅原! バイトさせて!!!」
「また?」
格式高い木製の扉が、ぶっ壊れる勢いで開かれた。
梅原家、別邸。梅原家長女の
「何か仕事ない? 料理はめんどゲフンゲフン、苦手だけど、掃除とかなら得意よ」
「友達に自分の家の掃除をさせないといけない私の気持ちにもなって???」
梅原の端正な顔がチベスナ顔に早変わりである。
モデルのようなすらりとした脚を組み替えて、従者たちに退室を命じた。響が別邸に来るのは初めてのことではないため、従者も慣れたように部屋から立ち去る。
「まぁいいさ。けど、掃除をしてもらうわけじゃないからね」
「ハッ! まさか体を売るとかそういう……!?」
「あはは、殺すよ~?」
「おーけー落ち着け。冗談だって。It's a joke. Just kidding.」
「無駄に発音良いの腹立つなぁ……」
「で、私に何してほしいのさ」
棚にあるクッキーを許可も取らずにつまみ食いする響。勝手知ったる他人の家を地で行っている。
「魔眼採取」
「おっけー。仮眠室集合で良いよね? 丁度明日から夏休みだし、時間もたっぷり取れるでしょ」
「理解が早くて助かるよ」
妙に波長が合う梅原と響の会話はさくさく進む。“間違っててもどこかで修正すればいい”という大雑把な感性をしているというのも、要因の一つだろう。
「いやーそれにしても、話変わるけどさ。VR機器そっちで買ってくれたのは大分助かったぜ。まぁ、いざとなればオトモダチに連絡して用意してもらうつもりだったけど」
「その無駄に広い人脈、本当になんなの……??? いつの間にかお母様ともお父様とも仲良くなってて、死にたくなったんだからね」
「草」
「笑い事じゃないんだよなぁ……」
「厳格なお父様と病弱で外に一歩も出れないはずのお母様が揃って“良き友人の響”って紹介してきたあのときの衝撃は忘れられない……」と梅原は遠い目になった。響は笑い過ぎで呼吸困難になった。
「つーか、お前の
「あー、まだ見習いみたいなものだし、大丈夫じゃないかな。世間にも知られてないし、正式にはまだ勇者じゃないんだよね。私」
「『FMB』ってそこら辺の判定謎よなぁ。魔王も別に忌避されてるとか人類の敵とかそういうんじゃないし」
「魔法を司る王だから魔王なんだっけ? なら、勇者と敵対してるってわけでもないと思うよ。むしろ味方っぽい」
「味方かー。何かあり得そう」
他愛のない雑談のあと、響は帰ることにした。この別邸は獅子高の近く、つまり寮もすぐそこなので、寮に住む面々はコンビニに行くのと同じくらいの感覚で別邸に来る。
「じゃあの~」
「ほんとに自由だなぁ、こいつ。にしても、何にそんなに使ったのさ」
「ソシャゲのガチャのために課金して、FPSでスキン購入するために課金して、あとお前らにも
「それ私があげたお金、またこっちに来ることになるんだけど」
「安心しろ。無理のない課金、略して無課金だ」
「ちゃんと言葉のキャッチボールして??? どこから電波受信してきてるの?」
「生活費には手ぇ出してないからセーフ」
「私を頼る時点でアウトだよ。それに出してたら確定で双葉君に殺されてるでしょ」
「それはそう」
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